丸山るい・短歌のひみつ「王様の耳」

今回は歌人丸山るいさんの短歌のひみつをおとどけします
短歌マガジン 2024.11.23
誰でも

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■歌人プロフィール

丸山るい(まるやまるい) @in_ruins

東京都在住。「短歌人」所属。第22回髙瀬賞受賞。

***

[短歌のひみつ]

王様の耳

  丸山るい

 短歌のひみつをわたしは知らない。知らないけれど短歌とはひみつのようなものだとも思う。

 短歌をつくっているとき、定型という穴に向かって話しかけている気分になる。人の耳に向けては語らないことをぼそぼそと呟くうちに歌ができる。それはほとんど、王様の耳にまつわるかの寓話のようなもので、誰にも言わないかわりに穴に吹き込んだつもりのことが、気づけば歌になって他人にも聞こえている。そのときわたしは、あの王であり床屋である。星新一がショートショートに書いた「おーい でてこーい」の穴、にも似ているかもしれない。押し込めたはずのものが、かたちをかえて、あるいはそのままで、ふと目の前にあらわれてくる。

漏らすともなく漏れてしまうひみつを、聞き取ること。うしろめたさや、ねじれや、そうとは自分でも気がつかない偏りが、そのひとの短歌をそのひとだけのものにしている。それは歌の明るさや暗さには関わりがない。写実か幻想か、事実か虚構かどうかにも。歌がだれかのひみつであるとき、そこには、おのずと世界そのもののひみつも含まれてくる。短歌という回路を経なければ明かされなかったひみつに触れているとき、わたしはよろこびのすぐ近くにいる。

(丸山るい)

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