第31回毎月短歌・連作部門(選者:田島捺さん)選評発表

ネット月詠「第31回毎月短歌」,連作部門,選者:田島捺さんの選評です
次世代短歌 2026.07.04
誰でも

[次世代短歌プレミアム]

(選者の原稿を預かり、編集部で記事化させていただきました。編集部の公開作業が遅れてしまい申し訳ありません)



はじめまして、こんにちは、田島捺と申します。はじめて毎月短歌にて連作部門の選者を務めます。発表が遅くなり、大変申し訳ありません。

自己紹介すると、2014年に大学短歌会で短歌を始めて、2018年から未来短歌会の「フムフムランド飛地」こと紀野恵欄に所属しています。今回は、先日の第8回笹井賞で最終選考候補として誌面に掲載されたところからお声がけいただいたとのことです。

さて、今回は40作品応募いただいており、そのなかから一席、二席、三席を選出しています。連作のなかで特にいいなと思った歌や印象に残った歌を引用しています。よろしくお願いします。

一席:金井水月「遍在」

Everything is Alright すべての人が気付けばホームセンターにいる

もし五年の執行猶予を貰ったら何をしようか 結露  結露

法律は破綻している 友人は廃れたネットミームで喋る

ぬいぐるみのタグを引きちぎろうとして て てて て  て て 流れ星

エロゲーの広告見たよ人知れず彗星墜ちていくのも見たよ

露悪的なマンガの露悪的なシーンは心地が良くて 雪が溶けない

/石けんが/泡立つ音を/聞きながら/無感情/感情/無感情/

パピヨン 被造物だと思えればすべてを嫌わなくて済むから

口調は軽やかなのにどことなく倦怠感が漂っていて、独自の文体と韻律感覚が確立されていると感じました。

  Everything is Alright すべての人が気付けばホームセンターにいる

Everything is Alrightと言っているけど、なんだか本当は大丈夫じゃなさそうな感じがします。「すべての人が気付けば」という無意識的に引き起こされたかのような言い方で、明るいホームセンターが異世界めいてきます。

韻律は〈Everything/ is Alright /すべての人が/気付けばホーム/センターにいる〉で区切って5・7・7・7・7か、〈Everything is/ Alright〉で7・5とするか、英語フレーズ部分をワンフレーズとしても読めますが、いずれにしても「すべての人が」で三句目が七音になってそのまま下句につながり、三句目からホームセンターに地滑りしていくような感覚になるのがおもしろかったです。

  もし五年の執行猶予を貰ったら何をしようか 結露  結露

いまは執行猶予を貰えていない状態だが、しかしもし執行猶予があれば……? 執行猶予という夢想が現実から溢れるようにして結露になったのでしょうか。この歌も韻律にひねりがあって、結句は六音ですが、二字空けが休符のような役割を果たし、想像上の執行猶予を持て余すような途方に暮れた印象があります。

  ぬいぐるみのタグを引きちぎろうとして て てて て  て て 流れ星

こちらは感覚に準拠した韻律で、引っ張っていたら引きちぎれて飛んでいってしまって、呆然と流れ星を見ている感じがします。

  エロゲーの広告見たよ人知れず彗星墜ちていくのも見たよ

エロゲーと彗星のどちらもが同列になり、人知れず観測される。静謐な印象と俗っぽいものが取り合わせられています。

  /石けんが/泡立つ音を/聞きながら/無感情/感情/無感情/

記号の使い方が特徴的で、石鹸を泡立てる動きと思考の切り替えを斜線として捉えているのかなと思いました。自分の身体に意識が向かうからか、入浴は内省と取り合わせやすい素材ですが、そこにレトリックの工夫が入り、ソリッドな印象になっています。

  パピヨン 被造物だと思えればすべてを嫌わなくて済むから

パピヨンは蝶の意味。もしくは犬のパピヨンでしょうか。品種改良という意味では被造物なのかもしれません。被造物だと思おうとすることで「すべてを嫌わなくて済む」ようになろうとしているようです。

全体的にクールな文体のなかに俗っぽさと詩的なイメージが同列に現れてきて、「すべて」をうっすらと嫌ってしまいそうな気持ちの揺らぎを見つめている連作だと思いました。文体の安定感と実験的なレトリックのバランスが優れていて、一席としました。

二席:宇祖田都子「寒い夜」

不注意で枯らした花を入れておく青いバケツによく似たバケツ

ステンレス棚にぼんやり照らされて寸胴鍋は収まっている

非常時は常温のまま食べられるレトルトカレーを温めている

各都市の雪の印を指す棒がオレンジ色の気象予報士

絶え間なく腐り続ける一箱のみかんがずっと目の前にある

なにげない風景の描写が自然な言い回しでするすると入ってくるのに、どこか不穏な気配が漂ってくるところがよかったです。文体の無理のなさと、日常的だけど、あまり注目されることのないモチーフを短歌のなかに登場させるおもしろさも感じました。

  非常時は常温のまま食べられるレトルトカレーを温めている

非常時は常温のまま食べられるが、今は非常時ではないので温めている。平時においてうっすらと漂う非常時の気配があります。不穏な気配に関しては三首目がもっとも象徴的な歌で、連作のなかにあることによって、「非常時」の存在がよりおそろしく感じられました。

  不注意で枯らした花を入れておく青いバケツによく似たバケツ

青いポリバケツのようなものなのか、そういうバケツが身近にあるのか、枯らしてしまって花を入れておくバケツが意識されながらも、目の前にはそうではないものがある。

  ステンレス棚にぼんやり照らされて寸胴鍋は収まっている

一見は平和な風景なのですが、この連作のなかにあると、日常的な景色と表裏一体の死の気配がどこからともなくやってきて、寸胴鍋という言葉にぎょっとさせられます。胴体が切断されて収められている印象が脳裏を過ぎるのは、「収まっている」という言い方によるものでしょうか。

  絶え間なく腐り続ける一箱のみかんがずっと目の前にある

実際、時間が経つほど腐敗していくものですが、「絶え間なく」で腐り続けていく様子を早回しで見ているような感覚になりました。滅びや腐敗の気配が日常のなかにあることを引き出していく連作だと思いました。過剰に心情を語らずとも、微妙な印象や予感を載せていくところがうまい。

青いバケツ→鍋→レトルトカレー→オレンジ色→みかんという流れで、モチーフの見た目のイメージがつながっているのかと思いますが、作意的な印象がなく、自然に感じられるのではないでしょうか。より長い連作も見てみたいと思いました。

三席:明井ふみ「冷たいまちで」

(bless me)イルミネーションと人々がくしゃみの出るほど|眩《まばゆ》いまちで

小田急線直通急行 本日も誰もが何者かのまま揺れる

三日月を見てベランダのモノローグ 三角形の風が突き刺す

ストーリーライターはなぜすぐ人を殺すのだろう(よもやわたしも)

脈拍を確かめるよう左手を右手で取って刻むエピタフ

無人駅のようでターミナル駅のような35.6℃

夜の曇天へ紫煙を溶かしこむ(わたしはわたし)曖昧でいい

薄明の沈みきらない深海へ等間隔に泳がす羊

|辛福《こうふく》と読めば自分を騙せるの(なにか足りない)違和感ないね

海のあるまちでくらそう アネモネがかすかに香るように 静かに

イルミネーションに感じる疎外感から始まって、小田急線に乗り、ベランダで外を眺め、部屋で眠ろうとする一連の流れがあり、「都市の孤独」というようなストーリーラインが引かれているのですが、そのテーマにいろいろな記号や括弧がきちんと作用していて、連作内でバリエーション豊かな歌の形を見られるところがよかったです。

  (bless me)イルミネーションと人々がくしゃみの出るほど|眩《まばゆ》いまちで

一首目からいきなりおもしろい記号の使われ方が出てきました。ちなみに《》はルビということかなと思っています。人がくしゃみをすると「お大事に」の意味でbless youと言う習慣があり、イルミネーションと人々の多さに圧倒されたような気持ちがくしゃみとして出てきそうで、自分に言っているということでしょう。一字空けでもスラッシュでもなく、読点でもない「|」が不思議で、半拍に満たないくらいの一瞬の溜めが入る感じがします。くしゃみが出そうなときの溜めでしょうか。

  三日月を見てベランダのモノローグ 三角形の風が突き刺す

三角形の風は三日月から吹いてくるような、モノローグからの流れで漫画的な線で描かれた風のようなイメージを思い浮かべました。一首目からのつながりで、社会や人々の眩しさに圧倒された気持ちが風に突き刺されている感じがします。ベランダがモノローグを語っているのか、ベランダにおける自分のモノローグなのかはちょっと曖昧ですが、三日月、ベランダ、三角形、風の並びによって風景が組み立てられてきておもしろかったです。

  ストーリーライターはなぜすぐ人を殺すのだろう(よもやわたしも)

言いさしで省略されているのは、ストーリーの都合で人が殺されるのと同じように、「よもやわたしも」殺すのだろうか、もしくは殺されるのだろうか、でしょうか。殺すことや殺されることが、ストーリーライターの書く範疇の外に溢れてくるような不安が感じられます。

  夜の曇天へ紫煙を溶かしこむ(わたしはわたし)曖昧でいい

「誰もが何者かのまま」と厭世的に始まったこの連作が、ここでムードを変えて、曖昧でいいと自己を許容する態度になってきました。煙草と内省のイメージは結びつきやすいものですが、ここは「溶かしこむ」がうまくつなげているように思います。

  薄明の沈みきらない深海へ等間隔に泳がす羊

寝る時に羊を数えるというところからの発想で、深海と泳ぐ羊のイメージがおもしろい歌でした。しかも等間隔。「泳がす」となっているところから、眠れないままひたすらに数えている状態なのでしょうが、海を泳ぐ羊のイメージと連作最後の歌のイメージとが響き合って、眠りつつ余韻を残して終わっていくところがよかったです。

***

ほか、いいなと思った連作からよかった歌を一首。

もういっそこの身体ごとシットコムの中に入り暮らしてみたい

朝暮ミナミ「chill town」

ガンゲームのような世界観が統一された連作のなかで目を引いた歌でした。結局のところシットコムの世界には入ることはないけど、ずっと自分のあたまのなかにはイメージがあって、入ってそこで暮らしてみたい、という。「この」がいいのかなと思います。アバターとかではなく、自分の身体ごと持って行くという没入感がもたらされています。

ロストバゲージ 循環をする秒ごとに出口を探す太い静脈

片切枝香「不在」

下句は身体の静脈視点か、もしくは静脈のなかの血液の視点でしょうか。ロストバゲージして、飛行場などのベルトコンベアがぐるぐるしているのをただ眺めている心許なさと、出口のない静脈を循環する閉塞感がだんだん響き合ってきて、不思議な感覚になりました。

以上となります。今回たくさんの連作を読み、特に文体がすごいな、と思った連作を選びましたが、どの作品も非常に力作で、読んでいてとても楽しかったです。ありがとうございました。

(選評:田島捺)

***
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