【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第40回)3月1日〜3月7日

歌人toron*さんの短歌日記をおとどけします
短歌マガジン 2025.03.13
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[短歌日記]

ナイフのように爪先立ちで 第40回

toron* 日記 3月1日〜3月7日

  梅の花 春にゆだねて外側の自分の起伏を均してもらう

3/1(土)

 ぼんやり10時前まで寝てしまった……が、起きたらめっちゃあったかい。いっきに春が来てしまったのか。

 昼から衝動的に奈良公園まで夏生さんと散歩に行く。コートがいらない。うれしい。気持ちの内面が昨日と全然変わってしまった感じがある。

 奈良公園はたまたまかもしれないが、きょうは歩くのに苦慮するほど観光客は(といっても奈良なので、東大寺に行く前あたりで観光客はほぼ途切れる)いなかった。

 鹿も昼過ぎには鹿せんべいをもらう量が飽和状態になるので、木陰で営業終了しているのだが、かなり営業も活発であった。

 興福寺の五重塔の工事は続いていて、今は巨大なプレハブのようなものですっぽり覆われてしまっていた。

 アイスカフェオレを途中で買ったが、カフェオレをアイスで買ったのもひさしぶりだった。

  溶けかけのバニラアイスのやはらかさ たつた今から夏と決め込む/門脇篤史

 という短歌が好きなのだけど、このアイスカフェオレを買って、今漠然と春だなあ、と思う。

 16時過ぎに帰宅。晩ごはんは鶏もも肉を玉ねぎと一緒に焼いて、白ワインとバターを足してソースにする。そこに菜の花を足してからさらに煮る。……めっちゃ簡単なのだけど、なぜか豪華な雰囲気になる。

ご飯よりパンが合いそうな感じ(といいながら白飯を食べるのだが……)。それとキャロットラペ、しめじとうす揚げのお味噌汁。青森で買ってまだ封を切っていなかったシードル「走れメロス」も開ける。

 夜になってからも暖かさは続いて、エアコンをつけずにそのまま眠った。

3/2(日)

 きのうと同じくらい暖かい。けれど雨である。そしてこのまま来週半ばまでずっと雨で、気温はまた冬の冷え込みに戻るらしい。

「この天候だとメンヘラが爆発するかもしれない……」と夏生さんが云っていたが、爆発したらどうなってしまうのだろうか。

 そんな夏生さんとふたりで、午後から家で十首会をする。

 十首会とは、制限時間を決めてただ黙々と短歌をつくる会である。もともとは「百首会」として、半日くらいかけて百首つくるイベント……らしいが、これに自分は参加したことはない。武田ひかさんがそれをアレンジして、1時間弱で十首つくる仕様にして、自分はそれには何度か参加したことがあった。

 今回は夏生さんが短歌をつくれない、ということでちょっとやってみるかというこいなったのであった。

 十首会で短歌をつくると、ふだん使わない筋肉を無理に使う感じというか、自分でも予期しなかった語彙が自分の中からやってきてくれて、わりと好きだ。

 でも、これは無酸素運動みたいなもので、毎日やるとめちゃめちゃしんどさがある。潜水のような感じだろうか。

 時間は今回、1時間半でわたしは二十首、夏生さんはロスタイムを設けて十首つくれた。

 終わった後、近鉄駅前の「ヤマトブルワリー」でその短歌の感想会。

 感想会、といっても実際はこのヤマトブルワリーがオープン一周年記念ということで、クラフトビールと前菜のセットが安くなっていたからである。

 それ以外にピザとポテトサラダも追加するなど。……前菜にガトーショコラが付いていて、スタウトとの相性がとても良かった。そういえば夏生さんと外食もひさびさである。

 しかし、身内に感想をいうのはよくわからない緊張感があるなあ、と思う。すべてオープンにしている家庭も多いのかもしれないけれど、わが家は不干渉である。

何をつくっているのか、結社の月詠でようやく解るという感じ。なので感想といってもお互い特に激しくなることはなく、ひとまず半分くらいは月詠に使えそうだと解った。

 わたしの方は別に見せてもいいのだけれど、夏生さんの方が見せたがらないので自然とそうなっているのかもしれない。あとはお互い、虚構の景からつくるというタイプというのもあるかもしれない。

 短歌をお互いにつくっている家庭も、どちらかだけつくっている家庭も、こういうのどうしているのか、とたまに思う。

 帰り道の商店街はもうかなりお水取りの気配が濃くなっていた。来週くらいに行けたらいいけれど。

3/3(月)

 月曜からさっそく元気がない。漠然とした不安と焦燥感に駆られている。

 土日と15℃くらい気温差があること、雨であることに加えて、あした黒の組織の支店長が来ることが大きいような気がする。

 いや、特になにか怒られるような案件はなにもないのだが、今月から毎月面談に来るということでストレス値が爆発的に高くなってしまっている。明日など来るなという感情と、はやく終わってこのストレスから1ヶ月は解放されたいという感情がきっちり半々で同居してしまっている。

 晩ごはん、長谷川あかりさんのレシピで長芋と鶏むね肉の梅バター炒め。しめじとなめこのお味噌汁。常備菜の豆苗のナムル、かぼちゃと豆のマリネなど。

 夏生さんも寒暖の差であまり調子が良くなさそう。早々に風呂に入って横になる。

3/4(火)

 ここさいきん兵庫県知事関連のニュースを追ってしまったりしている。その記事を読んでどこかうすら寒い印象を受けるのは、法律に違反していなかったらいい、という渦中の人の開き直りを感じるからだろう。

 他県なのにこの一連の事件がなんとなく気になってしまうのは、こういう「開き直り」の仕方をする政治家がこれから増えてゆくような予感があるからかもしれない……。

 それはそれとして、きょうはXデー。黒の組織の支店長との面談の日である。

 いろいろ訊かれることに対して、特に切れるカードもなく話しながら燃え尽きる。

 いや、自分の処遇が今後どうにかなってしまうようなことではないし、それにどちらかというと終始おだやかな面談ではあったのだけど、なんだろう……圧倒的な「やばい」予感しかしないというか……面談が終わったのが10時半であったが、昼休みに入るまで、燃え尽きた灰の状態から人間の姿に戻れなかった。

 しかし、午後に入ると「やばい」としてもこのままやってゆくしかない、というようなモードに入って、ふだんうるさい左脳がしずかになり、めちゃめちゃ集中できた。いつもこんな感じになれたらいいのだが……。

 晩ごはん、夏生さん作の厚揚げを焼いてそぼろのあんをかけたもの、鶏肉のケチャップ炒め。

 たんぱく質多めだが、このあとフィットボクシングをするから、ということを考慮しているわけではない……と思う。

 家に帰ってからもふしぎに気持ちが落ち着いていて、自分もフィットボクシングをやって、流しを磨いてから寝た。

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