【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第32回)1月4日〜1月10日

歌人toron*さんの短歌日記をおとどけします
短歌マガジン 2025.01.15
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ナイフのように爪先立ちで 第32回

toron* 日記 1月4日〜1月10日

  柚子刻みばらばらになるこれからの時間いのりとひかりといかり

1/4(土)

 きょうは夏生さんの実家へ。日帰りだけどお昼に招待されているのである。

 「酔い止め、飲んでおいた方がいいよ」と事前に夏生さんに云われていたので素直に飲む。

ずいぶんましになったとはいえ、自分はエレベーターやシーソー、ブランコでも乗り物酔いしながら幼少時代を過ごしていた猛者である。

 実際、夏生さんの家へ向かうまではけっこうな山道なのだ。いちおう去年も行ったはずなのだけど、まだそれなりの緊張感がある。

 着いてから夏生さんのお母さんにすき焼きをよばれる。

 すき焼きは関東風で、実家でつくっていた砂糖醤油の関西風よりずいぶんあっさりして食べやすかった。今はこっちの味の方が好きかもしれない。

 夏生さんの家はお父さんが関西、お母さんが中部出身なのだけど、食のルーツは東の方っぽい感じがする。喋る言葉もお母さんと夏生さんはほぼほぼ標準語なのである。

 去年もこういうふうにお昼を呼ばれたとき、緊張して、というか卓球のラリーのテンポが合わないような感じになってしまって、帰り際に肩がガチガチに固まってしまったりしたのだけど、今年はぜんぜんそんなことがなかった。きのうも感じたことだけれど、こうやって少しずつ慣れていくんだろうな、と思う。

 食後、たまたまやっていたNHKのドラマ『眩』をみんなで見る。

 葛飾北斎の娘、お栄が主役の話で演じていたのは宮崎あおいだった。葛飾北斎は脳卒中を刻んだ柚子で治したというくだりを、興味深く見る。

 途中、ちょっとどんな場面かよく覚えていない箇所で、夏生さんが2回くらい泣いてしまうがお母さんは「あれ、感動の場面だったかな」と号泣慣れしている感じで、そちらも興味深かった。

 16時前くらいにお暇する。雪がうすく降っていたが、山を降りて行くうちに止んでしまった。

 帰る途中に、福岡の水族館のラッコ、リロくんの訃報のニュースを知る。

 きのうも調子が悪そうだったので、覚悟はしていたもののけっこうなショックを受ける。

 というか、メイちゃんキラちゃんは会ったことはあるけど、リロくんは会ったことがない、というかまず人間ではなくラッコなのに、なぜこんなにもショックを受けてしまうんだろうか……と改めて考えると、やはり、メイちゃんキラちゃんもいつかはいなくなってしまうこと、そしてそれだけではなく、自分の好きなひとたちもいつかは必ずいなくなってしまうことを、その奥に感じてしまうからなのだと思う。特に動物は、いなくなると良かったことばかり思い出してしまう。

 帰宅して、ぼんやりしていたら夏生さんが晩ごはんにムースーローをつくってくれたので、ありがたく頂く。

 今夜は『メダリスト』アニメの初回放映があるのだけど、さすがに1時半までは起きている自信がなく……でも、夏生さんはそれまでの『相棒』の特番も見たいので起きているらしい。

1/5(日)

 夏生さんは昨夜けっきょくリアルタイムで『メダリスト』のアニメを見て号泣したらしい。

 きのうもそうだが、夏生さんの涙腺はかんたんに決壊できるので、どれほどの場面だったのかは想像するしかないが、それとは別に、作中の振り付けを鈴木明子が監修していたり、モーションキャプチャーが使用されていたりと、クオリティも抜群に高かったとのこと。

 自分もリアルタイムで見たかったが、さすがに1時半放映はきついからな……おれも歳をとってしまった。いやでも、1時半放映ってふつーに遅くない……? もうこういう深夜アニメって配信で見てもらう前提だったりするのだろうか……。

 まあとにかく、アマプラでは翌週の金曜日から解禁されるらしいので、そっちを楽しみにしておこう。

 夏生さんが、掃除機や食洗機の内部の掃除を代わってくれたので、午前中は原稿やったり、をデスクでの書類作業をやったり。

 午後は明日からの常備菜の仕込み。にんじんと玉ねぎとツナのマリネ、白菜と柚子のシーザーサラダ、味玉をつくる。

 晩ごはん、年末あたりからチャレンジしたかった柚子カレー。 

 いろいろ脳内でシミュレーションはしていたのだけど、具は豚こま、白葱と玉ねぎ、大根、金時にんじん残り、という感じで。

 スパイスを追加すると柚子の風味が消えそうなので、生姜とにんにくのみじん切りだけプラスして、トップバリュのルウで煮込む。

 仕上げに柚子の皮を散らして、柚子胡椒と柚子の果汁を絞って食べる。

 味的にはなかなかいいところまで辿りつけたけど、まだ具がちょっとうるさい気がする。あと、ルウがもったりしがちかもしれない……ううむ柚子カレー、おまえはもっと高みに辿り着ける……こんなところで終わっていいやつじゃないだろ……。

 と、いうことで、柚子カレーはさらに試行錯誤します。

 21時半から恋愛短歌同好会のキャス。

 こんな明日仕事はじめの人も多いだろうに閑散としてたらどうしよう……と思っていたが、先月よりたくさん来てくれて良かった。もう83回もやってるのに、未だに謎に慣れてなさがあるのが自分で可笑しい。

 参加人数が多かったこともあり、ひさびさに終了時間をオーバーしてしまったけれど、それも楽しかった。

1/6(月)

 きょうはまだテレワーク。仕事用のパソコンを立ち上げると起動パスワードを忘れていて焦る。

 ……なんとか思い出せたが、たった10日の休みでこんなに人はリセットされてしまうものかと動揺する。

 しかし、相変わらずネットワーク不調。うーーむ。まあ、他にもできることはあるといえばあるが、スタートダッシュし損なった感じがある。

 晩ごはんは栃尾揚げを焼いたのと、きのうのカレーでカレーうどん。

 日中ずっと降っていた雨が、ようやく止んだので近所のウェルシアまでフリクションの替え芯を買いに行く。

 別に今日でなくていいといえばいいのだが、きのうと今日あわせて300歩くらいしか歩いていなくて、ピクミンブルームユーザーとしてどうやねん、と感じたりしたからなのである。

 しかしこの夜でほんとうに自分にとっての正月休みが終わりなんだな、と思う。

 昨年末は毎年のことながら、ああ今年も自分は何も成し得なかった……という気持ちになったのだけど、振り返ってみたら実は結婚して名字も変わったり、1週間青森に旅行したり、短歌の方も結社賞を頂いたりしているので、何かは成し得ているのだけど、なんだかそのどれも、そう思ったことも含めてひどく遠い他人のことのように思えてしまう。

 寺山修司がよく引用していたオズワルド・シュペングラーの「去りゆく一切は比喩にすぎない」という一文を、こういうときによく思い出す。

 あまりこういうことを考えてしまうから、夜は遅くまで起きていては駄目なのだ。

 今年の目標「23時には寝る」を守るために、帰宅してすうっとねむる。

1/7(火)

 5時起床をもくろんだものの、5時半に起床する。ニアピン賞。

 夏生さんはきょう遅出だったので、わたしより少し前に起きていて「早起きだね、早起きだね……」と云われるなど。

 およそ13日ぶりの出社。解除パスワードはうろ覚えだったにも関わらず、仕事に関しては座ったらけっこう自然に思い出すことができた。どっちにしろ、今日はほとんど打ち合わせとか工程確認ということもある。

 各地からのおみやげがずらっと部内のフリースペースに並んだのも良かった。

星田さんからは六花亭のバターサンド(神の食べもの)、立羽さんからは横浜ハーバー(みんなだいすき)を頂く。

 ちなみに岬さんは12/27からインフルエンザにかかっていたらしく「最低のお正月」だったとのこと。今年のインフルエンザ、しつこいらしいですね。

 未だに一度もインフルエンザにかかったことがないので、うっすら怖れている。

 仕事後、整形外科始め。

 あんまりちゃんと休み中の日記に書いてこなかったが、わりと休み3日目くらいで肩が爆発しそうなだるさになっていたのを、いろいろごまかしつつやってきていたのである。たぶん、リビングの椅子がパソコン作業をするのに相性が悪すぎるのだと思われる。

 だったら別の椅子買いなよ、と云われるだろうが1LDKのわが家に作業スペースがいくつもつくれないのだよなあ……年末に会った高校時代の友だちにも「1LDKでスペース足りなくない? パーソナルスペースもないし」とかなりダイレクトに指摘されたが、まあパーソナルスぺースは上手くはできているのだけれどね……スペースもいくらあってもいいのかもだけれど、費用がね……。

 晩ごはん、夏生さん作のシーフードパスタ(コンソメ味)。

 パソコンのネットワーク不調が直らず、明日はテレワークではなく出社になる。ぐぬぬ。

お弁当用の味玉やブロッコリーのおかか和えなど、常備菜をつくり足す。

1/8(水)

 5時半起床成功。夏生さんがラジオ体操的な動きをしているところに遭遇する。

 近鉄奈良駅に行く途中の道で、つばめの巣のなかにまだ一匹だけ、つばめが残っているのを見つける。……既に大人のつばめのようであるのだけど、つがいはいないようである。

 奈良のつばめは10月くらいになると、巣立ちしたつばめは平城京跡地の葦原で、渡りに入るまでねぐら入りするはずなのだけど、残っていて大丈夫なのだろうか。

 いや、つばめは確か5℃を下回ると活動できなくなるはずなので、ぜんぜん大丈夫ではないだろう……心配になるが、確保して自宅のストーブで温めるわけにもいかないし……。

 つがいが途中で亡くなったりしたら、性質上、現地で新たな相手を探すことは難しいだろう。それにもしかしたらなんとなくペアをつくりそこなって、渡りの群れに加わりづらいとか、そういうことがあるのかもしれない。

 つばめにもつばめの社会があって、人間のそれよりもきっと厳しいのだとも思う。

 黒の組織から今月と来月、シェルター内で作業できるのか打診のメールがくる。うわーー。心が激しく乱れる。

早く寝たりしてメンタルを整えても、外的な要因で乱されてしまうのがやるせない。人生。

 晩ごはん、にしんのみりん干し焼いただけ。これなぜか表面がうっすら赤い(それこそタコさんウインナー的な色素)のだけど、何故なんだろう。気になりつつもまあ食べるが。

 夏生さん、風邪の初期症状なのか体調悪め。自分もきょうはいろいろあったので、話したいことはあったけれど、あんまり話ができそうにない感じだった。 

1/9(木)

 夏生さん、熱はないのだけれど、布団に入っていたとは思えないほど身体が冷えていて、頭痛がひどいらしい。風邪なのかまだ微妙なのだが、頭痛薬を飲んできょうは休むとのことだった。

 実際きょうは気温がぐっと下がっていて、天気予報通りに午前中は雪になる。はじめてピクミンブルームで雪判定マークが出て、雪ピクミンを一度に2体ゲットできた。やったね。

 きのうのつばめ、巣にどうもいるようではあるのだけれど、きのうのように動いてはいなかった。単にうずくまっているだけなのかもしれないが……巣が人様のガレージ内にあるので入り込むわけにはいかず、遠くから覗くのみだが。 

 奈良は今夜から明日にかけてさらに大雪の予想。といっても、わたしの住んでいる場所は奈良市内の北部なので、積もってもそこまでだろうし、われらの近鉄電車もそのくらいの雪ならふつうのダイヤで走るだろう。積もるのは南部の方で、岬さんの職場近くはどうももう降っているようである。

 というのも、夕方、岬さんと職場でライブカメラを見ていたのである。

 岬さんは福井出身なのだが、実家に帰省するときなどはこのライブカメラで雪の情報をチェックするらしい。福井はライブカメラの台数が奈良よりずっと多くて、おそらく同じように雪の定点観測をする人が多いのかもしれない。

 夏生さん用のスポドリやゼリーを買うために、帰り道スーパーに寄る。

 しかしスーパーに行くたびに野菜高っ!? と新鮮な気持ちで驚ける。えのきがついに178円もする時代が来てしまったのか。

 とりあえずもやしでも買うか……の気持ちで見ると、もやしが既に売り切れていて、みんな同じ気持ちであることがよく解る。

 晩ごはん、夏生さんはレンチンしてつくる蟹出汁湯豆腐(はじめて買ったがめちゃめちゃ美味しい)。かにかまと葱を足したらクオリティと満足感がさらに上がった。

 わたしはきのうの残りのにしんのみりん干しと、残り野菜でつくったお味噌汁、白ごはん。

 夏生さん、終日横になっていたらしいが、村上春樹の『辺境・近況』を読めるぐらいにまで回復する。

 ハルキがカメラマさんを伴ってキャンプに出かけたものの、テントの中に虫が侵入しまくってきたり、カメラマンさんが岩場で転んでカメラを壊して手足を切ってしまったりと、テンションが落ちまくって予定を繰り上げて1日で帰るという、めっちゃシティーボーイ感満載なエピソードが面白いらしい。

1/10(金)

 一夜明けて大雪の予想だったが、自宅近くは特に降っている様子もなく、むしろうっすら晴れている。南部の方も冷え込んではいるが、今のところ雪は降っていないらしい。

 Xのポストで『ドラゴンマガジン』の休刊を知って、ぶわああーっとさびしさが来る。

 自分がまだ、一日に1冊ラノベを読めていた、内面的にはもっともこじらせていた頃、毎月読んでいた。これと『ザ・スニーカー』と季刊の『電撃hp』をセットで読むことによって「世界」を解ったつもりになれていた、華々しい時代であった……。

 連載していたものだと『フルメタル・パニック』や『スレイヤーズすぺしゃる!』が好きだった……角川ミステリー文庫の立ち上げのときの特集も面白かった……しかし、ラノベの短編がカラーのイラストもけっこうな割合でついていて、今考えるとなかなかすごい雑誌だったよなあ、と思う。

 晩ごはん、白菜、葱、豆腐に鶏出汁の鍋キューブを入れて、鍋と湯豆腐の中間的もの。うどんを入れなかったが意外とお腹いっぱいになる。

 夏生さん、ようやくやや回復してきたが明日も不調だったら内科に行ってみるとのこと。

 今日から『メダリスト』のアニメがアマプラでも配信されたので、正座して観賞したかったが、意外と時間が遅くなってしまったので明日集中して見たい。

(つづく)

■歌人プロフィール

toron*(とろん) @toron0503

大阪府豊中市生まれ。うたの日育ち。塔短歌会、短歌ユニットたんたん拍子、Orion所属。第1歌集『イマジナシオン』(書肆侃侃房)。

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