【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第12回)8月17日〜8月23日

[短歌日記]

toron* 日記 8月17日〜8月23日

　　水にあらがうみずくらげたましいの標本箱のように見ており

8/17（土）

　湘南エリアへ旅行、初日は江ノ島へ。近鉄で京都駅まで出てから新幹線に乗り換えて新横浜まで出る。ちなみに駅弁、わたしは鳥せいの焼き鳥弁当、夏生さんは弘の焼肉＆ハンバーグ弁当。

　車中では駅弁を食べつつ、アジカンの『サーフブンガクカマクラ』を聴いて、現地の予習復習につとめたりする。とはいえ、京都から新横浜ってけっこう近いのだよね。2時間くらいで着いてしまう。そこまでぼーっとする時間もなく。

　ただ、江ノ島まで、なにげにここからが長い。新横浜から湘南新宿ライン、横浜線、小田急線などを乗り継ぎ、江ノ島に着くまで1時間半くらいかかった。前日の台風の影響、ほぼ全くなくて良かったとはいえ、気温も上昇修正されてめちゃめちゃ暑い。ひとまず、しらす丼のためにお店に並ぶ。

　並んでいるひとたちもお店の前を通り過ぎていくひとたちもだいたいカップルだったので、思わず夏生さんに「はじめてのデートって何処に行ったの？」と訊いてみたら、「忘れちゃったなあ。HEPかな……」と云われる。

　わたしは二条駅のイオンとかで映画とか観たんだったかな。何を観たのか忘れてしまったけれど、会話があんまり弾まなかった記憶だけある。

　40分くらい並んでテラスの席で、鯵やその他数種類のお刺身をなめろうにした丼を食べた。生しらすがもう売り切れていたのだけど、それもめちゃめちゃ美味しかった。しかし、半ば覚悟はしていたけど、暑さが半端ない……汗拭きシートとか冷却スプレーとか念のため持ってきていて良かった。使ったの、学生時にいったフェス以来かもしれない。日焼け止めも念入りに塗り直す。

　食べたあとは新江ノ島水族館に。水族館はけっこう好きで去年もいろいろ行ったのだけど、時期的なものもあるのか、行ったなかで最も混んでいたのではないだろうか……小さいひともたくさんいたので、あまり最前列に陣取ることも難しかったのだけれど、それでもここのエイは職業意識高めな感じだった。お腹をこちらに向けて何度も上昇していく。マンタのお腹って好きなんだよね。

　イルカショーも立ち見まで満員だった。立ち見でまったく見れないとかあるのだな……後半のエビやカニの展示で、ようやくゆっくり見れそうな人の流れになったかも。

　水族館を出ると、富士山を遠景にして、ビーチに夕陽が沈む時間でとてもきれいだった。

　こんな海沿いで生まれていたら、もしかして今より明るい性格だったかもしれないなあ、と海の家から流れる音楽を聴きながら思ったりもした。

8/18（日）

一夜明けて、きょうは熊野酒造できすた先生を囲む会。参加者、たんたん拍子のメンツに、きすた先生主催の野毛歌会のメンツも加えて12人という大所帯である。

　そしてそんな大所帯でゲリラ豪雨にぶちあたり、香山駅（ほぼ無人駅）で雨が通り過ぎるのを待つなど……けっこう天気が悪い予報は事前に会ったのだけれど、3分の1くらいは傘を持っていなかったのである。なんか謎の学生感。

　それでも、15分くらいで収まって良かった。熊野酒造は駅から歩いて10分ほどで、トトロに出てくる森を彷彿とさせる店構えだった。さっきの雨でできた雨だれがきれい。

　自分の席の前がとにーさんで、お互い今年は結社の賞に縁が合ったので話せて良かった。短歌人には佳作があるけど、塔にはなく、代わりに候補作があったり、全首掲載だったりと、結社によって特色がかなりある。あと、恋愛短歌同好会のキャスをしている最中、だいたい対面で夏生さんが美顔器を使っているという話をしたら思っていた以上にウケてしまった。

　斜め前が草薙さんで、たぶん直接会うのは1年……いや、もしかしたら2年近く前なのか……？

　草薙さんは今ハンガリーに留学中で、自分はハンガリーというと、

 　　髪けむらせ縄飛ぶ少女　ハンガリア少女と遠く恐怖を頒ち／塚本邦雄『日本人霊歌』

　だったりするのだけれど、ハンガリーの情勢は当然今とはかなり違うわけで。アルバイトの話とかいろいろ聞けて面白かった。

　熊野酒造はレストラン以外にも敷地内に、古着や陶器などを扱うお店や、パンやソーセージを売る店もあって、ちいさな村、という感じだった。お土産に鎌倉ビール(ハーブセゾンにした)とクラフトジンを買って帰る。

　一行はさらに2次会へと向かうらしいのだけど、わたしと夏生さんは夕方少し前に離脱。全然話足りなかったけど、エノモや永井さんは2週間後の塔の全国大会のときに会えるわけなので、楽しみを敢えて残しているともいえるのか。

　新横浜へ向かうまではそうでもなかったけれど、新幹線の座席に深くもたれると、肩と腰の疲れを自覚した。

　昨日もそうだったのだけど、移動時間がけっこう長い割に電車や駅で座れたのが新幹線のなかだけなのだよな……まあ、もろ観光地ということに加えて、湘南地区の人口は約130万人。これは奈良県全土の人口とほぼ同じである。この夏、いちばん人間を見たかもしれない。

　そういえば、きすた先生に『レテ／移動祝祭日』のサインをしてもらったのだけど、その際、わたしのめっちゃ好きな歌が入ってないことを伝えそびれてしまった。

　　春の雨は嘘みたいでしょおおむかしわたしはきみを好きだったんだよ

　という、確か2020年ごろの歌なのだけど、好きなのである。

　京都駅に19時すぎに着いて、カルネを買って近鉄に乗り換え、奈良に着いたら21時前だった。

8/19（月）

　きょうはテレワーク。昨日、そんなに遅くならずに帰ってきて、しっかり湯舟につかりクエン酸を投入して始業開始ぎりぎりまで寝ていたはずなのに、しっかり疲労が体内に「在る」ことがわかる……。

　夏生さんもかなり疲労感が濃いが、こちらは今日は休みである。テレワーク中に、対面に座ってスマホとかいじられたらいやだなあ……と考えていたのだけど、そういう気配が伝わったのか、別の部屋で漫画を読んだりしてくれていた。

　仕事後、実家に預けていたかたつむりを迎えに行く。まいちゃんはかなり大事にしてもらっていたようで、特にお願いしてはいなかったのに、水槽の中も毎日掃除してくれていたようだった。新横浜駅で買ったお土産の横濱ハーバーダブルマロンを渡す。

　実家の晩ごはんで久しぶりにささみのピカタが出てきて美味しかった。

　奈良に着いたのは22時前。明日から出社とかフィクションとしか思えん……起きられる自信がなかったので、ひさしぶりにアラームをかけてから、クエン酸を投入してねむる。

8/20（火）

　10日ぶりの出社。現実との乖離感が半端ない……え、ほんとうに10日前にこの電車に乗ってました？　と不安になりすぎて、2回くらい電車や出発時刻を確認するなど。

　出社すると、ほとんどの人がきのうから出社しているわけで、休み前の作業スピードを取り戻せたのが昼前くらいだった。それでもいつもの倍は疲れた気がする。

　晩ごはん、赤魚の粕漬け、白ごはん、キャベツと玉ねぎとうす揚げのお味噌汁。

　赤魚、めっちゃ鱗が残ったままで身離れもわるくて個人的にハズレだったのだけど、わたしの方の切り身だけなのか、夏生さんは骨も皮もきれいに剥離して食べていた。

　お互い、土日の解消しきれていない疲労へさらに疲労が加算された感じで、黙々と入浴後にストレッチをしてからねむる。

8/21(水)

　ようやく旅行疲れがとれてきた……が、夏生さんはきのうの出社で悪化した感じ。喉も不調そう。

　きょうテレワークだった予定を月曜にずらしたので、出社しているので、始業前に洗濯とか掃除機もかけられず……ダブルワークしているひとって、掃除機とかどのタイミングでかけているんだろう。お互い6時前に起きて、帰宅したら19時過ぎなので、土日逃したらかけられないときが全然あるんだが……。

　晩ごはんは夏生さん作、豚の生姜焼き。以前に肉をたれに漬け込んで野菜と一緒に冷凍しておいたやつを焼いただけやけど。それと切干大根のサラダと白ごはん。

　しかし、それにしてもそろそろ米がやばい。

　仕事後、スーパーをはしごしてみても、見事に米の棚がからっぽなのである。

　ニュースで散々不足が煽られているけれど、奈良にはさすがにまだあるやろ、と舐めた態度でかかってしまったのが敗因だった。すみませんでした。

　Amazonや楽天でも「在庫切れ」「10月から発送」の表示ばかりだし、まれにあっても値段が通常の3倍くらいになっている。……とはいえ、もうあと1キロ強くらいしか在庫がないし、お互いお弁当を持って行く派なので、買わざるを得ないとはいえ、この3倍米を買うことは可能な限り避けたい。

　夏生さんに「帰る途中の道で、お米売ってるとこある？……お米屋さんとかスーパー以外でも」と訊いてみたところ、端的に「ない」と返される。　

　いやいや、自分の方が米食べてるしもっと考えようや、ってゆーかまず云い方な、とかいろいろ思ったが、感情にまかせてガチ目に指摘して泣かれたら、その後消耗するのは結局自分なのでただ「そうか……」と返す。その後もあまり会話、成り立たず。

　とりあえず、会社の前のKOHYOが24時間営業なので、明日早めに家を出て、チェックしてみるか……あと、自分の分はしばらくオートミールとかを代用にしてもいいし。

　夏生さんもいろいろしんどいのだろうが、自分もホルモンバランスの調子悪い周期なので、人生つらーー！　という感情のままにシャワーを浴びた。

　明日、『メダリスト』の21巻の発売日だということが救い。かたつむりが伸びたりちぢんだりしているのを眺めてからねむる。

8/22(木)

　寝て起きたら『メダリスト』の21巻発売日になってた。やったーー!　

　出社前にhontoの電子書籍で買って、通勤途中の車内で読む。……気がついたら新刊出てたんだ、ではなく、発売日が待ち遠しくなって当日に買う漫画が、まだ自分に存在しているということも嬉しい。最後に待ち遠しかった漫画っていつだろう……『暗殺教室』とか？

　『メダリスト』はきらいだったりむかつくキャラが全然いなくて、どの子も全日本えらい子選手権ノービスB優勝してほしい。あ、でもそのなかでは蛇崩先生が好きかな。今回、ひさしぶりに出てきてくれて突っ込みが良かった。

　いつもより2本はやい電車で、出社の前にKOHYOに寄る。

　棚に10袋くらい、全部2キロだけれど米があった。しかもジャスト1000円。この時間にはまだあるし、入荷はちゃんとされているんやね。無事に買うことができてほっとした。

　同じことを考えてる人がけっこういるみたいで、自分のあとからも米を手に取る人がけっこういた。

　『メダリスト』は昼休み中に読み終わって。ふわーーっとなる。次巻は今年の12月に出るらしいので、それまで生き延びなければなあ。

　晩ごはん、鶏もも肉のトマト煮。玉ねぎ、しめじ、薄く切ったきゅうりをトマトソースで煮込んでからペンネを加える。

　夏生さんはようやく疲れが抜けてきたようで、ちゃんとふつーに会話ができたし、米を買ってきたことに対してめっちゃ申し訳なさそうだった。

　5時半起きだったのでさすがにいつもより早く寝る。

8/23(金)

　出社。しかもきょうはオートミールでおにぎりをつくってみた。オートミールに水とオイルを混ぜてレンチンすると、わりと米に近い触感になるとのこと。

　レシピではシンプルに塩味だったのだけど、塩昆布とバジルも刻んで足してみたら美味しかった。白ごはんでは全然ないな、とは思うもののこれはこれで美味しいし、けっこう満足感がある。自分はしばらくこれでいいかな。

　きょうは仕事終わりにユリコさんと福島に飲みに行く予定だった。先週、お祝いのLINEをくれたので会うことになったのだけど、近況を訊くとなんとユリコさんも入籍していたらしくめちゃめちゃびっくりした。しかもわたしの3日前に……！

　もともと話が進みそう、という話は前回に会ったときに知っていたのだけど、それもゴールデンウィーク明けのことだったので、それから急速に進んだ感じだった。

　「いやでも、ちょっと云うてくれたってええやんか。なんでわたしだけお祝いの言葉とかプレゼントとかもらってるねん……！」

　そう、ユリコさんからお祝いにクラフトビール（伊丹酒造の美味しいんですよ）を頂いたのだけど、当然こっちはそういう情報を得ていなかったので、手ぶらである。いちおうユリコさんの小学生からの友達のはずなので、しっかりそのあたりは主張させてもらった。

「いや、特になんの意図もなかったんやけど、なんかお祝いごとに後から被せる感じになっちゃってタイミングを失ったしまったというか……」

　と、いうことらしい。ユリコさん、入籍はしてもまだ家は探している最中らしく、けっこう自分が部屋を探しているときに似たところで悩んでいて、面白かった。ちなみに自分は、今の家にほぼ満足しているし、買った家具も割と良かったけれど、テレビに関しては配置を最初に決めるべきだったな、と思っている。

　帰り際「今度は福島じゃない方がお互い便利になるね」と云われて、そういえばこのあたりでもう10年近く、仕事後に集まって飲む、ってやってきたなあ、と思ったりした。

　JRと近鉄を乗り継いで奈良に帰ってくると23時。

　楽しかった後の方が妙にさびしくなるというか、ホルモンバランスがおかしい周期に入っている所為か、あんまり自分でもよく解らないまま感情が夏の蚊柱のようになってしまって、シャワーを浴びたら謎の涙が1時間くらい出続けて、収まりきらないままそのまま眠った。

（つづく）

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toron*（とろん） @toron0503

大阪府豊中市生まれ。うたの日育ち。塔短歌会、短歌ユニットたんたん拍子、Orion所属。第１歌集『イマジナシオン』（書肆侃侃房）。