【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第51回)5月17日〜5月23日
[次世代短歌プレミアム]

[短歌日記]
ナイフのように爪先立ちで 第51回
toron* 日記 5月17日〜5月23日
表情をたやすく水面へ持たせたるひかりの無頓着をおそれた
5/17(土)
きょうは天満で山本夏子さんと昼飲み。先日の文フリ東京でおつかいをしたので、それの受け渡しも兼ねて……という感じである。
奈良に住む以前は大阪のスラム街に住んでいたのだが、そのひとつ前は実は天満に住んでいた。
北区なので梅田にも葉ね文庫のある中崎町にもチャリで行ける距離ではあったのだけど、当時は短歌もやっていなかったし、仕事と掛け持ちのバイトを往復するのみの生活で、このあたりのエリアのいいところをあまり堪能しないままスラム街へと引越してしまった。
と、いうのもこのあたりは昼飲みの店が乱立しており、それもチューハイ&ハイボールは協定が結ばれているのかだいたいどこも1杯50円という価値観がバグりそうなエリアなのである。
きょうはわたしのリクエストで9時から空いている「ばってんよかとぉ」という豚串のお店に集合した。
おつかいの『A面立方体』と『胎動短歌』『たんたん拍子』Vol.7を渡し、豚串のしろ、舌根、鶏の生ハム、塩ピーマン、塩もつ煮などを思うがままに頼む。
山本さんとはお互い結社も同人もやっているし、現代歌人集会にも入っているのでけっこう話題が多くて楽しい。
関西にも短歌で知り合いは多くいるけれど、意外と外に出て行っていないので、こうやって短歌もそれ以外もフラットに話せる存在がとてもありがたく感じる。
1軒目のあと、どこかでコーヒーでも飲もうか、ということになったのだけれど、この近隣のチューハイ&ハイボールはだいたい1杯50円(2回目)。つまりカフェでコーヒーを頼む金額の7分の1ないしはそれ以下の価格なので……と、いうことをいいわけに、2軒目に突入してしまう。
ちなみに2軒目もとても楽しく、そして2軒行ってもひとり3千円以下で収まる良い飲み方で終わることができた。
さいきん、昼飲みが特に好きな気がする。それには帰宅して少し昼寝できることも含まれているように思う。
5/18(日)
きょうは母が奈良まで遊びに来る。そういう約束をGWにしていたようなのだが、めちゃめちゃ酒を飲んでいたので実は近日になるまで忘れていた。
ただその場にいた夏生さんはそこまで飲んでいなかったので「そのあたりに万葉植物園か鳥羽水族館に行こうって約束してたよ」とアナウンスしてくれて事なきを得た。
そしてひとまず奈良公園からの万葉植物園、その後、国立博物館の無料開館日に行こうという段取りもできた。
夏生さんとともに9時ごろ、母を近鉄奈良駅まで迎えに行く。
朝なので奈良公園の鹿たちの営業も活発で、鹿せんべいを配りながら歩く。
母は夏生さんが間にいても、職場の人間関係のことや仕事のなんだかんだの話をふつうに話すので、逆にとても気楽である。
悪い意味ではなく、自分と母はむかしから距離感がある。
おそらく自分は母からほぼ全く叱られたことがないし、やることを否定されたり強制されたりすることもなかった。
たぶんそれは、母が祖母を反面教師にしていることによる気はしているのだけれど、母から直接聞いたことはない。
それはとても幸運なことだという自覚はあったけれども、母がわたしに何を望んでいるのかということが10代はずっと解らず、何かが不安だったように思う。
20代になってからしばらくして、そういう不安は杞憂でしかなく、ただ生きていてくれればいいということがようやく解ってきて、30代を超えてからはこの距離感でずっと接してくれる感謝がある。
万葉植物園は春日大社の手前のほどに位置していて、5月半ばまで遅咲きの藤の花が見られる……という触れ込みだったのだけど、藤はもう完全に散っていた。
タイミング悪かったねー、といいながら池の周囲のかきつばたか菖蒲を撮りながら歩く。
はじめて来たけれど、インバウンドの観光客も少なく、桜も紅葉も園内にあるので、タイミングを外さなければなかなかいいエリアなのだと思う。
鯉の餌が100円だったので、3人で分ける。餌ばかりやっていますな。
この時点で既に6000歩くらい歩いているので、いったん奈良公園を離脱して出てすぐのところの「杉玉」で休憩。
全員でそれぞれお寿司とチューハイを頼み少しずつつまんだりする。きのうも昼飲みしたのにきょうも飲んでしまったが、昼飲みは最高なので仕方がない。
そして鯵のなめろう巻、うな玉巻などが美味しくて、チューハイを追加しそうだったけれど、これから博物館に行くので1杯で賢く終わらせた。
国立博物館は特別展ではなく常設展の方だけ無料だったのだけど、こちらもまだ入ったことがなく、巨大な仁王像や毘沙門天像を黙々と見るのは楽しかった。
母はまだ仕事で一日2万歩近くあるくことも多いらしいけれど、それでも、こういう階段や足場の悪い場所に今のうちに連れて来られて良かったな、と最近よく思ってしまう。自分も歳をとったからなのだろうけれども。
母を近鉄奈良駅まで送ってから帰宅。
晩ごはんは塩豚と蕪のポトフ。青梗菜とマッシュルームとハムのサラダ。
帰宅したら17時くらいだったので、煮込む時間が足りなかったのできょうは電気圧力鍋を使ってつくってみた。かなりいい感じにできたし、ふだんよりスープも美味しかった。
このクオリティを10分でできるならこれからはもう電気圧力鍋でつくるか、という気持ちになる。
夏生さんはお昼の杉玉がそうとう良かったらしく「杉玉また行きたい……」と2回くらい云っていた。
5/19(月)
仕事後、黒の組織からの電話がかかってくる。
なんでも、これから2日ないしは3日に1回、作業の詳細や体調や出向先の状況などのヒアリングのため電話をかけてくる、とのことである。
いやそれ、毎日日報に書いてますやん……それ以上なにを話すねん。
おそらくは上の方たちが日報に書いてないことがあるんじゃないか、ということで決まったのだろうけれど、日報に書いてないことは別に口頭でも話せないので……ちなみにこれまでも「土曜日の勉強会(給与出ない)」「一日に3種類の日報を提出」「朝昼晩の進捗報告電話」「月1回の謎の昇給に関わる(と脅されていたが満点でも給与に何の影響はなかった……)実力試験」、などそれほんまに必要ですか案件のイベントが存在したのだが、どれも勝手に自然消滅してしまった。
土曜の勉強会は結局2回くらい、朝昼晩の進捗報告電話は1ヶ月もたなかった気がするが、謎の実力試験はけっこうしぶとく2年半くらい続いたように思う。
どれも発案は社長かそのジュニアによるものだろうが、その突発的アイディアに携わる課長クラスの方々のキャパオーバーによって企画消滅せざるをえなかったのだろう。そりゃ、いうのは簡単ですが、実際やらされる方は他の仕事もあるのに急に大変ですよ……。
とはいえ、黒の組織からよくわからない指示をされることがここ数年の生活の中で最もストレス案件になっているので、今後どうしていこうか、という気持ちになる。
とりあえず黒の組織から電話が会った日は平日でも酒を1杯飲んでいいことに決める。
晩ごはん、夏生さん作のホイコーロー。きょうはそれに芋焼酎の水割りをつける。
だらだら飲まずにその1杯を飲み終わるときには気持ちを切り換えられるように心がけたい。
5/20(火)
東京文フリで買った高殿円の『98万円で温泉の出る築75年の家を買った DEEP』読み終わる。
これの前作はタイトル通り「98万円で温泉の出る築75年の家を買った」というエピソードなのだけど、今回はその家のDIY編である。
セカンドハウスを買いたい気持ちもDIYへの興味もそんなにないにも関わらずめちゃめちゃ面白く読めた。
配管事情は職業的にいろいろ頷けるところも多かったし、わが家は賃貸だけれども和室から完全リフォームされた洋室なので「ここはおそらくサンダーをかけたあとマット塗料で塗り直された箇所だな……」とそれまでと違う見方ができるようになった。
晩ごはん、夏生さん作のキムチ焼きそば。
夏生さんもこのエッセイは読了して「関西からもっと近くて熱海っぽい場所だと伊勢とか……」と温泉つき一戸建てやマンションをググったりしていた。
お互い出勤する必要のある会社なので、セカンドハウスに住めることが果たしてあるのかは解らんが……。
5/21(水)
きょうはテレワーク。そして就業前に自転車を飛ばして図書館へ本の返却に。
終業後に行った方が余裕はあるのだが、きょうは午後から雨らしいので……大田ステファニー歓人『みどりいせき』、ロバート・コルカー『統合失調症の一族』を借りてすごい勢いで帰宅する。
『統合失調症の一族』は以前から気になっていたのだけれど、電子書籍価格ですら3300円くらいするので、ここで手に取れて良かった。実際想像していたより分厚かったし、余白少なめでびっしり詰まっている文字数でもあったので、見切りで買わないで正解だったかもしれない。
終業後、さっそく黒の組織からの定例の電話。事務の若い女の子からだったのだけど、かけろと云ってくるトップと現場との温度差を感じた。そりゃ別の業務もあるのに電話とかかけさせられて大変だよな、と思うなど。
晩ごはん、ミートソースのドリア、キャベツのコンソメスープ。芋焼酎の水割り。
先日、電気圧力鍋の実力を目の当たりにしたので、このスープも煮込んでみた。結果、大量のキャベツも10分ほどでくたくたになり、かつ旨味が濃かった。やるな……!
ただ、実はわが家はこの圧力鍋を使ってふだんは米を炊いているので、仕事後に帰宅してから使おうとすると役割が被ってしまって難しいのである。ガスレンジで使う圧力鍋を買うか検討したいところ。
5/22(木)
そういえば、未だにGW中に申し込みしたはずの生協の電話連絡がなく、資料も届いていない。うーーむ……メールフォームに「申し込みが現在殺到しているのでお時間を頂いております」とは書いてあったが、20日はさすがに長くないか。それともこれが古都・奈良に流れている時間なのか……?
そういえば、成田美名子の『花よりも花の如く』というマンガに「奈良県民は関西人のなかでもおっとりしている」というセリフを思い出す。夏生さんも関西人らしい「いらち」な感じがないので、その形容はあながち的外れではないように思う。
とはいえ、来週頭に連絡がなければ、さすがにこちらからせねばならない。来月から夏生さんの勤務場所が変わるので、仕事終わりにいつものビッグに寄ってもらうことも難しくなるため、それまでには環境を整えたい。電話連絡はハイパー苦手な作業なのだが……。
『インベスターZ』全巻を読み終わる。なにげにコマの密度が低いのと意外と悪人が出てこないことも相まって、読みやすかった。貯金ができないタイプの回が特に面白かった。
ただ「ホリエモン(ないしは前澤友作)やっぱりすごい」的な作品内の雰囲気は、個人的にはあまり……まあ、あくまで作中の10年前の感覚なのだろうとは思いたいが。
それにホリエモンのいうネット(おそらく主に当時のtwitter)の様相も10年経って様子が変わっているし、イーロン・マスクにUIを調整されたり、フェイクニュースが氾濫したりして「ネットの真実」(本当にそんなものがあるのかも解らないが)に辿りつけないことは予想していなかっただろう。
晩ごはん、鶏肉と残り野菜いろいろのチリソース炒め。もやしと卵の中華風スープ。冷ややっこ。
夏生さん用にプラス一品おかずを用意したが「おやつにお餅を2個食べたのでちょっと食べられない」とはじめてそんなことを云われたので驚愕する。どこか身体が悪いのではと心配になる。
5/23(金)
月曜にエントリーしていた株をいい感じの値段で利確する。ただ、調子にのってその後すぐ別の株を後場の前に買ったら、上がったり下がったりしたのち結局500円くらい下がって終了する。欲を出したらいけませんな。
『インベスターZ』の「勇気を持って最初の一歩を踏み出したものにビギナーズラックは訪れる。しかしお前は今もっと儲けたいと欲を出してしまった。純粋さが濁ってしまってからはもっと上手くなるように努力するしかない」というセリフを思い出すなど。
しかしこれは投資のことに限らず、短歌に対してもいえるようにも思う。
短歌に出会ってから、基本的にずっと楽しくやっているつもりではあるけれど、出会った頃の楽しさのままではないし、その頃につくっていた歌はもうつくれないだろう。それでも上手くなるためには努力するしかない。
仕事後、黒の組織からの電話。かかってきた事務の女の子がさっそく「きょうは特に変わったことはありませんでしたよね」という訊き方で、この新たな業務の大変さを察する。こういう作業に疑問を持たずにやれる、もしくは適当にやり過ごせるひとが長くいられる会社です(自分は後者)。
その後、整形外科に行って首、肩、腰をほぐしてもらう。
少し前から横向きに寝ると腰が痛くなることを相談すると、猫背のひとで腹筋がないと痛くなりやすいといわれてしまう。まじかあ。フィットボクシングはやっているが、夏生さんみたいに全然腹筋つかないんだが……プラスで筋トレして腹筋をバキバキにするしかないのか。
晩ごはん、買ってきたメンチカツとイカリングフライ、サラダ、キャベツとベーコンのお味噌汁。芋焼酎の水割り
やや暑かったので今日はシャワーにしたらうっすら寒かった。パジャマではなくエアリズムのワンピースを部屋着にしているのも良くないのかもしれない。
(つづく)
※toron*さんの短歌日記は次回最終回となります
■歌人プロフィール
toron*(とろん) @toron0503
大阪府豊中市生まれ。うたの日育ち。塔短歌会、短歌ユニットたんたん拍子、Orion所属。第1歌集『イマジナシオン』(書肆侃侃房)。
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