【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第52回・最終回)5月24日〜5月31日
[次世代短歌プレミアム]

[短歌日記]
ナイフのように爪先立ちで 第52回
toron* 日記 5月24日〜5月31日
この町の夜は深くてしばらくは重たい影を忘れていられる
5/24(土)
午前中は来週分の株を粛々とチェックしたのちエントリー。夏生さんはポケモン。
なにか他にやった方がいいのかな、とかも思いつつ対して何もせずに晩ごはんの準備に入る。
きょうは餃子。市販の皮を使ってひさびさに自分で包んで焼くタイプのやつをつくる。
具はキャベツ、玉ねぎ、豚ひき肉。それ以外の味付けはモランボンのホームページのレシピの通りにした。……モランボンのレシピでやると、多少皮が破裂しても具があふれ出さないし、またしっかりめの味付けなので、具があまって翌日それだけ使って調理した場合、追加で味付けしなくても済む。
今回はさらに大葉を用紙して、皮に巻き込みながら夏生さんと包んでいく。サカナクション、ドーピングパンダ、離婚伝説、a flood of circleなどを流しながら。
このやり方は『きのう何食べた?』の餃子パーティーの回でやっていたつくり方なのだけど、あまり上手く真似できず。皮が大判の方が良かったような気がする。……といっても、夏生さんがつくった方のぎょうざはかなり整っていたのでわたしの器用さの問題なのかもしれなかった。
それでもさすがのモランボン先生のレシピだったので、特にかたちの崩れることなく焼くことができた。
夏生さんと交代でチューハイなどを飲みながら焼いたが、わたしはわりとフライパンいっぱいに同心円状に敷き詰めて焼くが、夏生さんは個数を決めて縦に並べて焼いていて、互いに個性が出ていた(特に出すところではないかもしれないが)
しかしひさびさに邦ロックを聴いていると、ライブってコロナ以降の倍くらいの値段するようになったなあ、と思う。
短歌をはじめる前のTwitterのアカウントは音楽アカウントだったので、ライブの遠征に行く少年少女らがタイムラインにあふれていたが、今はどうしているのだろうか。
5/25(日)
きょうは夏生さんの車でならファミリーまで買いもの。
午前中なので、そこまで混んでいないユニクロ、無印、KALDIを周回したあと、フードコートでお昼ごはん。自分、めっちゃふつうだな。と唐突に思う。
いや、ずっと昔からそうだったはずなのだが。なんかこういう生活をしてはなるものか、みたいな気概が10代にはあったような気がするのだが、ずいぶん遠くまで来てしまった。
ならファをあとにして、車でビッグに寄って来週の食品をいろいろまとめ買い。
かんたんに食べられそうなレトルトやパスタソースなども買う。
というのも、来週土日は塔の全国大会で横浜に行くので、その後しばらくは疲労困憊しているはずなので……。
晩ごはん、きのうの餃子の具の残りをつくねにして焼いたもの。レタスのサラダ、山なめと小松菜、うすあげのお味噌汁。
食べながら今週分の『片田舎のおっさん剣聖になる』を見る。
主人公のおっさんベリル・ガーデナントが住んでいた片田舎は「首都まで馬車で半日かかる」らしいが、日本でいうと埼玉とか栃木あたりだろうか、という話を夏生さんとする。
「田舎」ではなく「片田舎」なところがポイントである。
「そういう意味では奈良も大阪までそれくらいだよね……生駒山もあるし」と夏生さん。
そうか、ここもリトルカントリーなのだな……。
5/26(月)
高校の天文部のグループLINEに通知。11月3日にオリオン座流星群が来るらしいので、今年はそれに合わせてコテージをとらないか、ということだった。
これまで観測のためのコテージは、鳥取の佐治町、兵庫の西播磨、奈良の五條市などに行ったことがあるが、全員がそれなりに行きやすかったこともあり、今年は奈良に決定する。
奈良県民がもっとも行きやすくてなんか申し訳ないが、ここだと帰りに洞川温泉にも寄れたりするので、ありがたい。
GWにランチに行った際に織花さんも行きたがっていたので、誘ってみたところ
「めっちゃ行きたいんやけど旦那が安全面どうとか言ってくるwww 旦那抜きになりそうやけど、とりあえず説得して娘と参加したい……!」
との返事だった。なんかめっちゃたいへんそうだな……山には電磁波の心配ないはずなのにな……。
晩ごはん、夏生さん作の鮭のムニエル。レシピを見ると生鮭を使っているものが多いけれど、塩鮭だと生臭さも少ないし、味も決まっているのでつくりやすい。皮がかりかりになってバターが染み込んで美味しい。
それとキャベツとベーコンのお味噌汁、冷ややっこ。
きのう、せっかくエアリズムのパジャマを買ったのに、今夜の奈良は驚きの14℃。来週6月なんやけど。半袖が寒すぎるので起毛の長袖を引っ張り出して着る。
夏生さんは半袖のままなので、寒くないのか訊いてみたが「寒いのか暑いのかよくわからない」と云われてしまう。
5/27(火)
起きた瞬間からだるい。さむい。この寒暖の差のせいか。去年もこんな感じやったっけ……もっと暑かったような気がするのだが……。
出社してよろよろ仕事。もう今日は最後まで椅子に座っているだけでいいことにしたい。
昼頃にすき焼き用の肉が金曜に届くというメール通知。え、なんのことやっけ、と宛先を見ると結婚祝いのギフトカタログで頼んだ「佐賀牛堪能コース」の第2弾が来るようである。
そうか、そういえば第1弾が届いたのはちょうど先月か……月日が早すぎる。
第1弾はしゃぶしゃぶ用のお肉だったが、今回はすき焼き用である。塔の全国大会から帰ってきた後も乗り切れそうな楽しみが増えた。
帰宅したら、珍しく夏生さんがまだだったので晩ごはんの準備。にら玉をつくって、あたためるだけのパウチの肉団子を投入する。米を炊き、新玉ねぎとなめこのお味噌汁をつくる。
帰宅してこれを15分でつくったので、自分なかなかやるやん、という感じだったのだけど、夏生さんは帰ってきて体調が悪いという理由ですぐに横になってしまった……寒暖差疲労だろうか。
晩ごはん、なかなか美味しかったが食べるのが苦痛だった。残りの家事をひとりで済ませて日付が変わる前に寝る。
5/28(水)
テレワーク。今日はわりと5月らしい気候なのにだるい。うっすら頭痛。今度は気圧のせいなのかもしれない。
夏生さんも朝ごはんを食べた形跡がなかったので心配。
終日よろよろ仕事。合間にGW前に資料請求をしてずっと届いていないならコープへ電話。
「5月2日に資料請求をしたのですが……」と云ったところで「届いてませんよね!大変遅くなって申し訳ございません!」と平謝りされたので、もしかすると、その時期になにかトラブルがあって、届いていない家庭がけっこうあったりしたのだろうか……素直にたいへんそうだな、と思う。
6月2日からひとまずはじめられそうなので、夏生さんの勤務地変更にもぎりぎり間に合った。
晩ごはん、塩豚のポトフ、レタスのサラダ。
このレタスのサラダ先週もつくったのだが、個人的にはめちゃめちゃ味が気に入っているのだけど、今回も特に夏生さんからコメントはなかった……まあ、勝手にヘビロテさせてもらおう。
兵庫県知事選挙の事件がここにきてまた進展していたのでネットでいろいろニュースをディグっていたら、食後1時間くらいあっという間に溶けてしまった。
5/29(木)
出社するとひさびさに東京支店の方が出張で来ていて少し身構える。
というのもこの人はたまに会うと「あれ、まだいたの?」という本人は親しみをこめつつ面白いと思っている、しかし実際ぜんぜん面白くない挨拶をしてくるので、出向している身としてはあまり愉快ではないというか。
わたし以外の各所にも云っているし、「そういう人」というラベリングを周囲にされている人でもあるので、深く考える必要はないのだが、毎回流している自分にも腹が立ってきていた。もし今回も云われたらキャイ~ンの天野っちみたいな笑い方をしつつ「いやいや、それは新島さんも……」と返そうと心に決める。
だが、今回本人は即座に打ち合わせ先に行ってしまったので、云う機会はなかった。
幸か不幸か。まあ、幸の方だな。感情はできるだけフラットでいたいので。
しかし、去年くらいの自分だったら、特に云い返さないままフラストレーションを溜めて日記に細かい文字でその際の感情をみちみち埋めていたので、成長したなとは思う。
いや、成長ではないか。どちらかというと何かが損なわれたような気もする。
悪意には皮肉を返す私にはガラスの靴がもう入らない/吉村のぞみ
という歌を思い出すなど。
しかし夏生さんというおそらく自分よりか弱い生きもの(本人はたいへん心外だろうが)を守りつつ、これからの人生をサバイブせねばならんのだし、ガラスの靴を履いてそれがで
きるかといわれると絶対無理なのだった。
お前らのために可愛いわけじゃない割ったガラスの靴で戦え/ちーばり
それはそれとして、これまでNISA口座の成長投資枠で売買していたのだけど、ついに枠がいっぱいになってしまった。なので、ここからは特定口座で取引せねばならない……つまりこれからは取引のたび税金が20%引かれることになる。……でも粛々と今後もやっていくかの気持ち。
晩ごはん、夏生さん作のソーメンチャンプルー。
株は面白いんだが、後場が終わった後の虚無がひどいので、15時半以降に熱中できるものはないだろうか、と夏生さんに訊いてみたところ「別に後場の後でも株のことを考えていたらいいのでは……夢中になれている時期って楽しいし」と返される。
自分は本当にハマるとそのことしか考えられなくなって寝食もおぼつかなくなるので歯止めをかけたい気持ちなのだが、その温度感があまり伝わらなかったようである。
短歌はどうした、と思うだろうが、短歌は頭を使うので頭を使う作業は合間に株のことを考えてしまいそうなのだよな……やはり筋トレとかで無になった方がいいかもしれない。
5/30(金)
きのうは日付が変わる前にベッドに入ったはずなのに、ハイパー寝つきが悪かった……加えて、ホテルに泊まってチップを払ったらPaypayでさらに要求されるという現実感のある悪夢を見た。金のことばかり心配するのやめたいぜ……。
しかし思い返してみると、自分は就職した直後から、わりと気持ちを深く折られたところがあって、あまり華々しい将来を描けないまま、金銭、仕事、両親の老後etc……などの「人生」が常に不安だった気がする。
現状を打破できないので、当然不安から脱出することができず、どうやっていたかというと、通常の仕事にバイトを増やし、そこで溜まったお金は主にインディーズバンドのライブを見に行くのに使っていた。
音楽は好きだったが、今思うと「充実している」と思い込みたい気持ちが強かったのだろう。
あと現在の3倍くらいは飲酒していたが、あれも不安が入り込んでくる思考の隙間を一時的に埋めたい気持ちがあったようにも思う。
そして途中から、音楽とか飲酒などの思考の緩衝材は短歌にとってかわった訳だけれど。
あれから不安の相対量は減っているのかもしれないが、「今それを考えない」ということ以外、未だに対処法が存在しないのだろう。株は利益が出て、その漠然とした不安感をお金が埋めてくれる気がするので、余計に面白く感じるのかもしれない。
気がするだけ、ということをせめて自覚しつづけたい。
なんかあんまり脈絡がなくなったけど、ここ最近、通勤時間に大田ステファニー歓人『みどりいせき』を読んでいて、ようやく半分くらいのところまできた。
文体の癖がかなり強い。けど神聖かまってちゃんの歌詞っぽさも感じて癖になる。終始つねにうっすらと不穏で、どういう展開になるのかまだ読めない。
晩ごはん、夏生さん作の親子丼、小松菜と玉ねぎのお味噌汁。
明日はついに塔の全国大会で横浜へ。きのうのうちに若干準備していたので、用意はラク。
夏生さんがサブバックがないというので、岩倉曰氏の短歌がプリントされたトートバッグを貸すことに。
5/31(土)
きょうはついに塔の全国大会。横浜へ。今月関東に行くのは2度目なので、京都駅に着くまではさすがにちょっと慣れた感じ。駅弁はきつねの鶏めし弁当と柿の葉寿司。
ざっくりと角度をつけてひとを恋う柿の葉寿司の葉っぱも食べて/大森静佳
という短歌があるけれど、めはり寿司と違って柿の葉寿司の柿の葉はかなり固くてしかも塩漬けにしてあるので、食べることは難しい。もちろんこの歌も食べたことを歌にしているのではなく、上の句のせいで、人間であることを止めてしまったような効果を出しているのだと思う。
道中、夏生さんは富士山が見える前に熟睡してしまったけれど、自分は先日まとめ買いした上遠野浩平『螺旋のエンペロイダー』を黙々と読んでいた。
新横浜で降りてから人間の多さにおびえる夏生さんを引っ張って乗り換えを繰り返し、大通駅に着いた頃には雨だった。去年の全国大会も台風だったので、あまりいい感じはしない。
でも会場に入ると、つい10分前くらいに開場したばかりのはずなのに、既に塔会員が大勢いて、こんなに短歌をやっている人がいるのだなあ、と改めて実感するなど。いや、塔の紙面には常に1000人くらいの名前で歌が載っているわけなのだけど不思議な感じ。
会場でエノモと合流する。2週間前に会ったので、「おー、やっとるかね」という感覚。
きょうは全体歌会なので、3グループに分かれて歌会である。グループはエノモとも夏生さんとも別れてしまったが、田村穂隆さんと一緒のグループで席も近くに座らせてもらったので、アウェー感が大幅に軽減した。ちなみに去年はかなりアウェーで休憩時間は部屋の隅でバームクーヘンを食べているだけで終了した。
歌会、といっても1グループで80人くらいいるので、ひとつの歌についての評ができるのが3分にも満たない。
でも、ひとつひとつの歌を一緒に読んでいくと不思議と気持ちが短歌のモードに切り替わっていくので楽しい。あと、実は今回、歌会記を担当することになっているので、かなりまじめにメモをとった。
自分の歌の評は永田和宏さんが担当してくれたので、かなり身構えていたが、3分くらいなこともあり、なるほどそう読むのかあ、という感慨だった。
その後の懇親会、実ははじめて参加することと、ビュッフェ形式にかなり高まったのだけど、今回は塔新人賞の受賞者に記念の盾を贈呈する役があったので、告がれる酒とケーキにどこまで没頭していいのかわからず……結果、そんなに食の方には没頭できず、酒は告がれるままに飲んでいたので、とりあえず緊張は緩和できた。空腹は緩和できず。
盾の贈呈は昨年の授賞式が台風によってできなかったので、せめて贈呈の担当を……ということで配慮してもらったのである。授賞のことばとか写真とか、ひええ……という感じだったので、こういう役割で回ってきてかえって良かったと思う。……ちなみに全然かんけいないけれど、昨年の塔短歌賞の受賞者の垣野さんが、作家のはやみねかおるさんにめちゃめちゃ風貌が似ていて驚いてしまった。
贈呈のなんやかんやで壇上にいたらその間にビュッフェ会場の食べものがほぼなくなってしまい……どうも「おかわり」的なものはないらしい。まあ、ホテル会場ではないのでしゃあないのかもしれない。
とはいえ、お酒はたくさんあったので、飲みながら去年よりたくさんの人と話せたのは楽しかった。月詠は歌集、この短歌日記のことについての感想も頂けて(特にこの短歌日記はXをやっていないひとも読んでくれているようでびっくりした)、酒が入っていなかったから、挙動不審になっていたように思う。
短歌はひとりでつくっていても、ひとりでつくり続けることは難しい。いろいろ考えながら、二次会に行くまでの濡れた夜の道をみんなで歩いて行った。
(了)
■歌人プロフィール
toron*(とろん) @toron0503
大阪府豊中市生まれ。うたの日育ち。塔短歌会、短歌ユニットたんたん拍子、Orion所属。第1歌集『イマジナシオン』(書肆侃侃房)。
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