第27回毎月短歌・テーマ詠「空」部門(選者:武田歩さん)

毎月短歌27、テーマ詠「空」部門、選者:武田歩さんの選評です
次世代短歌 2025.11.09
誰でも

[次世代短歌プレミアム]

(選者の原稿を預かり、編集部で記事化させていただきました)

金賞

前をゆく二人が空を見上げれば後ろがつられる入学初日/はるかぜ

入学式の後の帰り道と読んだ。「前をゆく二人」は入学初日に早くも仲良くなった帰り道が同じ新入生で、その後ろには別の新入生が歩いている。前をゆく二人にとっても、後ろを歩く新入生にとっても初めての学校からの帰り道である。後ろの新入生は、二人に直接声を掛けずとも、二人を密かに頼って帰路を歩んでいるのだろう。ふと前の二人が空を歩く速度を落として空を見上げた。後ろの新入生も思わずそれに合わせて空を見上げてしまう。四句目の字余りで、歩く速度が変わる様子、そこから新入生ならではの不安が明確に見えてくる。「入学初日」と歌を締めくくることで、初句~四句目までに描写されている新入生のあどけなさをどこか許しているような主体の姿が見えてくる。実景を描写しているだけであるのに、そこから複数人の人物像を見せてくる奥行きのある歌である。

銀賞

晴れだとは教えてくれた携帯も空の青さは知らないみたい/ヘチモディスコ

携帯電話で天気予報を見ているのだろう。画面には確かに「晴れ」と記されている。しかし、それはただ予報としての「晴れ」に過ぎず、いざ外に出て自らの目で空を見てみると、「晴れ」という言葉では形容しがたいほどの青さがあったのだろう。

「晴れだとは」が面白い。携帯の予報に対して信頼を抱いていない主体の様子が見えてくる。また、歌を「知らないみたい」と語り口調で締めることによって、自分の価値観を正しいとしている、芯を持った主体が浮かび上がる点も良かった。

ゆっくりと夏から秋になる空を蝉は地に仰向いて眺める/宇井モナミ

樹にしがみつく力を失った蝉が道路に仰向けに転がっている。夏の空に高く湧きたっていた入道雲はもう無く、鰯雲が力無く流れている。「ゆっくりと」が良い。生命の短い蝉も、地に落ちたあとは動くこともできず、ただ一日を空を見ながら仰向けに過ごすことしかできない無情感が伝わってくる。また、「見る」ではなく「眺める」としたのも良かった。生きることを諦め、自然に身を任せてゆったりと死へと向かう蝉の様子が見えてくる。

銅賞

買い物に出かけた街じゃ売ってないものがほしいや 空に三日月/睡密堂

買い物をしようと街に出かけたのに、結局納得のいく買い物は出来なかった。ふと空を見上げてみると三日月が浮かんでいる。結句前の一字空けでふっと我に返る主体の様子が見えてくる。「三日月」もよい。満月とはほど遠い月の形と、主体の満ち足りない気持ちが響き合っている。

みづうみが映しだす青ふれられる空はいつも壊れやすいね/ひなつじ羊

湖面には空が青々と広がっている。手を伸ばせば湖面の青にすぐに触れることができるが、指に触れた瞬間すぐに小さく波が立ち、その形が崩れてしまう。人の手が入らない水の中からこそ、空の青はうつくしくとどまることができるのだと感じさせられた。四句目の字足らずで空の脆さを感じさせる点が上手い。

何もかも浮かべる空にただひとつ沈むものあり、祖母のため息/ぷりんぷる

広がる空にはいくつもの雲が浮かんでいる。鳥が健気に飛んでいる。そんな中で、一緒にいた祖母のため息が聞こえてきた。何もかも浮かせてしまうような穏やかな空であったからこそ、祖母の息は重苦しく、地に堕ちていくように感じられた。「ただひとつ」という限定から、主体と祖母の頭上に広がる空の豊かさや、ため息をつく祖母に対しての慈しみが見えてくる。

空白をうめないこころ秋の日の袖の長さをたしかに決める/井山カナ

腕まくりの景と読んだ。長袖でいるにはすこし暑いが、腕を完全にまくって半袖にすると涼しすぎるし、まくった服が腕に食い込んで少し窮屈だ。まくりすぎないほどの長さだと、腕と服の間の空白に涼しい風が微かに入り込み心地良い。「こころ」まで言うことで、腕だけでなく、心にも少し余裕が生まれている様子がありありと見えてくる。また、結句の「たしかに決める」の言葉の選びも良い。ささやかなこだわりを持つ主体が見えてきた。

(選評 武田歩

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