第18回毎月短歌・連作部門(選者:森本 有さん)選評発表
[次世代短歌プレミアム]
(選者の原稿を預かり、編集部で記事化させていただきました)
皆さんこんにちは、森本有です。
先月の「毎月短歌17」に引き続き、連作部門の選をさせていただきました。
最近豆苗を育てている(再生産している)んですが、部屋に植物があるのっていいものですね。何か観葉植物とか買ってみようかな。
今回は特に私が好きだったものとして4つの連作を「特選」「準特選」としました。
早速ですが発表します。
特選(2作品)
あまりに個人的な / せんぱい
冬に怯える / 宇佐田灰加
準特選(2作品)
人のいろんな / 維々てんき
Unmanned Flight / 白雨冬子
■選評
選出した連作について、それぞれの評を以下に記します。
特選 あまりに個人的な / せんぱい
プライベートで繊細な感情をきれいな箱に大事にしまってあって、その蓋が何かの拍子に外れて少しだけ中身を見せている、みたいな素敵な連作です。海や本、小鳥などのノスタルジックなモチーフが点在しながら、統一された特別な時間のゆるやかなつながりを感じました。感傷的なイメージを貫く連作でありながらそれが主体の個人的な体験に寄りすぎていないことで、読んだ人それぞれの「個人的な」記憶を呼びおこしてくれるような、やさしくて切ない作品でした。
限りなくとうめいになり身ひとつで飛び込むことをゆるす海原
「限りなくとうめいになり」という表現が示唆するのは、自分の存在が世界と溶け合っていくような感覚。海原(うなばら)がそれを「許す」という言い回しが印象的です。身体感覚と精神の開放感とが一瞬で重なり合うように描かれていて、素敵です。
ようやっと水面に顔を出してみて白々と照る月だけがある
長い長い潜水のあとの息継ぎでしょうか。そんなときに視界に入ってくるのが「白々と照る月だけ」という、少し冷たい光景。浮上の安心よりも、むしろ月明かりが見つめ返してくる静寂を強く感じさせます。情景がふっと浮かんできて、好きでした。
特選 冬に怯える / 宇佐田灰加
宇佐田さんの連作はやっぱり好きですね。もはや選者やってほしいです。もうやってたりするのかな?
冬の寒さや光がもつ美しさと同時に、人間の内奥にある絶望や鋭利な感情をえぐり出すイメージが、強烈な言葉で示される歌が多いです。強い言葉の使い方が効果的で、なのに乱暴にはならない。ギザギザに割れたガラスのような美しさを持った連作です。
たましいが冬に怯えている 鋏 ラムレーズンをつまんで食べる
「冬」と「鋏」のイメージがバチっとはまって、いきなり目を引かれました。生活感と危うさを同時に匂わせているのが上手だし、この連作に引きずり込んでくるような強い歌です。はっきりと何におびえているのかは描かれないからこそ、読者の胸に不穏なイメージを残します。
悲しみを勝手に奪っていかないであなたはあなたの地獄で生きて
主体が抱える悲しみを、他人が勝手に「救おう」「奪おう」とする。人間として感じる痛みや弱さ、その営みを一方的に誰かに取り上げられてたまるか、という意志表明にも読めます。かっこいいです。
準特選 人のいろんな / 維々てんき
「人」という言葉が繰り返し登場し、現代のあらゆる“あるある”をスナップショットのように切り取っていく連作。もしかしたら、死ぬときに見る走馬灯ってこんな感じなんじゃないかと思いました。
one for one 優先席で寝てるふりしている人のメゾン・マルジェラ
この「one for one」って、①「一人は一人(自分自身)のために」か、②「一つ買うと同じものが一つ寄付されるやつ」か、どっちでしょうね。主体はなぜその人が寝てる「ふり」なのかわかったんでしょうか。いろんな読み方ができて、どの読みでも面白くて好きです。
準特選 Unmanned Flight / 白雨冬子
「操縦士不在」のような不安定さが通底する印象です。短い連作ですが、柔らかい喪失感みたいなものが素敵でした。「あんまん」と「Unmanned」をかけているのはもちろんわざとだと思いますが、あまり意図を読み取ることができませんでした。単にダジャレかもしれませんが、もしそうだとしたらちょっと余計だと思いました。そんなことする必要のないくらい素敵な連作だと思います。
もう少し父といようか鳥が来る窓辺をもった家だったから
「鳥が来る窓辺をもった家」という描写は、家族の何気ない日常風景がすでに過去のものになってしまったような切なさ、懐かしさを呼び起こします。主体の胸にある複雑ながらも大きな感情、家族への愛を静かに伝えてくる一首です。
以上です。
読んでくださりありがとうございます。
それではまたどこかで。
森本 有(@forest_book_san)
以下、入選全作品全文のご紹介です(編集部が追記しました)
[第18回毎月短歌・連作部門 特選]