田中翠香・2025年春の時評「次世代の注目歌人たち」
[次世代短歌プレミアム]

■歌人プロフィール
田中翠香(たなか・すいか) @suikakinenbi
未来短歌会、同人誌『水面』所属。2017年作歌開始。2018年歌壇賞候補作。同年短歌研究新人賞候補作。2020年角川短歌賞受賞。特技は朝寝をして昼寝をして夜寝をすること。趣味は映画と読書と旅行。
[時評]
次世代の注目歌人たち
2025年・春
田中翠香
今回がこのコラムの最終回です。さてどうするかな……と考えたのですが、ちょうど『短歌』三月号で高校生短歌の特集が組まれていたので、そこから印象的だった方たちをピックアップしていこうと思います。ざっと目を通して思ったのは、いい短歌を詠む人がひとりずつバラバラに存在するのではなく、学校ごとに固まっているということです。ということで、気になった歌を挙げていきます。
(宮城県気仙沼高等学校)
ひかる雲 僕らは神を人間と同じ単位で数えてしまう/昆野永遠
(星野高等学校)
原爆を二十世紀に受け止めた公園にいま緑溢れる/金光舞
(東京都立武蔵高等学校)
音漏れを聞く限り失恋している人に新宿駅まで寄り添った/安田湖夏
(神奈川県立光陵高等学校)
夕焼けが廊下に影を増やしてく 承認欲求、来るな、こっちに/猪野田涼奈
(筑紫女学園高等学校)
今日だけは過去も未来も振りほどき駆けてゆきたい冬の砂浜/平山暢子
印象的だったのはこの五人。昆野作品のふとした瞬間の気づき、金光作品の二一世紀生まれの高校生から見た二十世紀に起きた出来事としての原爆という捉え方、安田作品の人間を見る鋭くも丁寧な観察眼、猪野田作品の上句から内面の葛藤を鮮やかに写す下句への転換。平山作品の過去でも未来でもない「現在」に全てを振り切っている感覚。いずれも見事な素質を感じさせます。
今回取り上げた五人が所属している高校は、紹介されていた歌を読む限り他のメンバーの作品も優れたものでした。いずれも部活動として活動されている高校なので、短歌甲子園で実績を残すなどの学校として分かりやすい目標が優先されるかもしれません。一方で、挙げた五首はいずれも高校生の歌としていいのではなく、ひとりの作家の作品として優れていると思います。短歌を継続することも辞めることもそれぞれの人生の選択ですが、仮に続けるのであれば大きな成果を残すことができるだけの才能がありますし、やめても違う分野で優れた創造性を発揮できるでしょう。
そして最後に挙げたい高校生歌人がとかげまろぅさん。第0歌集として『人間図鑑』を出されたばかりですが、ここまで学校生活に作歌の重心を置いていない歌人は珍しい。
煌めきに近づく者を硫酸の雲に取り込んでいる金星/とかげまろぅ
語彙という点ではまだ伸びしろがあると感じますが、描きたい世界や感覚が明瞭であり、なおかつそれが同世代と一線を画している感覚があります。この姿勢が、作家として信頼できると思えるのです。自らの表現をこのまま徹底的に追及していってほしいところです。
ではまた、短歌の世界のどこかでお会いしましょう。
(田中翠香)
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