よしなに・自選短歌集

本日はよしなにさんの自選短歌作品をおとどけします
次世代短歌 2024.12.07
誰でも

[次世代短歌プレミアム]

■歌人プロフィール

よしなに @yoshinani_tanka

2023年11月よりXにて短歌のポストを始める。かぎしっぽ、桟橋、雨ふり、翼鏡、が好き。

嘆きとか 欲とか どうぞよしなに

***

[よしなに・作品集]

自選短歌集

   よしなに

だってもうあなたなしでは光れない 月の海でも溺れてしまう

透明な檻だと思う水曜の雨にのたうつ人魚のように

泥水に空の青さを映したら愚かな鳥が堕ちるでしょうか

この花器に私を生ける 咲きもせず愛でられもせずただ粛々と

ひび割れたペアのカップを捨てたなら珈琲色の空に新月

冠で君のブーケで棺おけで 花はたださく花はたださく

高く飛ぶ鳥ほど深く堕ちてゆく 翼が枷《かせ》と気づかぬままに

星屑を星と屑とにわけながら わたしの子宮の話をしよう

涙には二種類あって光るほうだけ見せていい約束なんだ

透明をかさねて青にするように 雨はふりますわたしの中に

菜の花の黄色は苦い 百足《むかで》より通学団の脚が多くて

抱きしめるための四肢なら足りなくて蚰蜒《げじ》めくぼくら畳のうえで

残された日々を数えて咲く花の百日草は夏の憂鬱

雷鳴が遠ざかるのを聞きながら頬杖をつく浴衣の金魚

不機嫌をばらまくダリア 汗ばんだ夏の午睡の夢はほころぶ

右目から落ちた涙が左目に落ちてそれからあなたに落ちる

また水をやりすぎた鉢 紫陽花は溺れ方だけ上手になって

愛すると愛しすぎるは天国と地獄くらいに同じことでしょ

たてがみを収めて二人眠る時 君のえりあし香る草原

神さまが胸に創ったふくらみは紫陽花だからさわっていいよ

何度めの満月でしょう 雲間からなぞられてゆく背中のほくろ

ぼくたちは昼と夜とのまんなかで抱き合いながら夏を葬る

足裏の砂を落としてからきてよ 秋がくるまで眠りたいから

静脈の青がわたしに波打てばあなたの海の鼓動にあえぐ

採取するあなたの唾液 汗 精子 正しい愛の標本として

私たち獣でしょうか 四つ脚で母音ばかりで啼きあうなんて

だれもみな月を映した夜があり 海も草露《そうろ》も裸体もひかる

貝殻のように拾って欲しかった あなたの海に雨が降る日は

あの人が私をふったのはなぜか 猫の言語に訳し答えよ

だとすれば夜はあなたの比喩でしょう 闇と孤独が優しい街の

押し花は色あせてゆく君といた夏の頁《ページ》で風を探して

この街は箱舟だろう 眠れない凪《なぎ》でぼくらを救いはしない

いつだって空の広さを映しては憧れるほどにごる泥水

太陽と書いてあなたとルビをふる真冬の花の信仰として

結晶になれば涙もこの胸に積もるのでしょう 雪の温度で

(よしなに)

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