第19回毎月短歌・1月の自選部門(選者:堀静香さん)

ネット月詠「第19回毎月短歌」,1月の自選部門,選者:堀静香さんの選評です
短歌マガジン 2025.03.06
誰でも

[次世代短歌プレミアム]

(選者の原稿を預かり、編集部で記事化させていただきました。みなさん、おめでとうございます)

毎月短歌19 堀静香 選

はじめまして。今回 「自選」の選者をさせていただきました堀静香です。『みじかい曲』(左右社)という歌集を出しています。選をするのは初めてですが、どうぞよろしくお願いいたします。

【一席】

脱走の一年生が校庭の真ん中で太陽を動かす/琴里梨央

評:教室を勝手に出てグラウンドまで行ってしまう、という状況としてはけっこう大変な場面なのだろうと想像するのですが、遠くからその光景を眺めると、ちいさな一年生が広い校庭で太陽を動かすように見えるという、その子自身の抑えきれないエネルギーを、さらに宇宙規模のスパンで認識する目線がその子にとっても救いになるように感じました。「太/陽」の句跨りも効いています。

【二席】

ふた切れの鮭を包んで焼く夜の銀紙なしに話せないこと/夏谷くらら

評:鮭のホイル焼きといういかにも平日の真ん中水曜あたりの夕食に出てきそうな料理と、けれど同時にホイルをひらく時のちょっとしたよろこびと、それを共有しながらふたりが今夜話すことはなんだろう、と想像しました。お互いの生活のなかにあるちょっとしたすれ違い、ままならなさ、そういう不穏さをわずかに感じさせながら、鮭、夜、銀紙という生活の言葉がリアルなその人の体温として響き合っており、とても巧みだなと思いました。

【三席】

ゆっくりと両手で本を閉じた子の祈りが鳥になりますように/よしなに

評:その子自身にとっては無意識かもしれない動作を「祈り」と捉え、それが鳥になって(はばたいてゆけますように)という主体自身の「祈り」になっているところがうつくしいなと思いました。本を伏せた形というのも、思えば鳥のようでイメージしやすく、すこし離れたところからその子を見守っているおだやかなまなざしが感じられます。

【佳作】

夢でなら会える気がする黒子とか細かいとこを省略すれば/村川愉季

→実際には夢では相手の顔の黒子までは認識できていないはずで、でも夢で会いたいという願うときにはそういう細部は端折られてもいいと思うポイントがいいですよね。

「東京で雪」のテロップ 東京も雪もあなたの類語で困る/あひる隊長

→東京、雪があなたの「類語」であるという把握が面白くキーワードであなたの輪郭が見えるところがいいなと思いました。

生返事にあふれる日々のだし巻きの余生のような黄色がきれい/石村まい

→「の」でつづいてゆく韻律がとてもうつくしく、そういう描写はないはずなのに春の高揚感を感じました。

図書室の児童書の背がひび割れる子どもに羽化を教えるように/アゲとチクワ

→長く日光に当てられていた背表紙の罅割れをすごく久しぶりに思い出して、それを羽化の前と捉えたところがとてもいいなと思います。

コンパスがなくてもきれいな円を描く田中は出世するんだろうな/てと

→きれいな円が描けることと出世は関係ないような気もしつつ、その思い込みに主体のいい奴感があらわれています。

試し書きされたペンから溢れ出た線のどれもがやさしい丸み/梅鶏

→試し書きのときのふいの筆跡を「やさしい丸み」と捉えるまなざしがあたたかいなと思いました。

水引のように毛先が結ばれて今夜わたしは祝福となる/鈴木美波

→毛先が絡まったことが「祝福」、今夜という限定も効いています。

掃除機のゴミ捨てるときの顔してる食べ尽くした鍋挟んでふたり/おもらし

→食後の満腹感をどこか虚ろなものと捉え、それが上句の無表情の動作と重なる面白さに納得します。

飛行機がおんなじとこで曲がるからあそこら辺が空の角だな/きいろい

→離陸直後に大きく旋回するときを「空の角」と表現したところがいいなあと思います。

(堀静香 @shuzo_shizuka

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