鈴木精良・自選短歌集
[次世代短歌プレミアム]
■歌人プロフィール
鈴木精良(すずき・せいら) @fufunag
2020年6月より作歌を開始。同人誌『号外』代表。塔短歌会所属。さまよえる歌人の会、旧永山邸歌会に参加。
[鈴木精良・作品集]
自選短歌集
鈴木精良
名まえだけ知るまちかどにふる雪のように静かだ あなたの歴史
月あかりまぶした夜のぶらんこにふたりでひとつのお祈りをした
深夜とはふかく眠れる夜のこと きみに深夜が足りますように
血のいろは白がよかった飛び散ってあなたのまちにはつゆきの降る
雨だれの滴り微量の願いからわたしに海が生まれてしまう
白蕪のポタージュ 時に満たされてわたしはやわくなるのがこわい
のしかかる空の途方(とほう)にあのひとは傘を持たずに行ってしまった
再生▷はくりかえす過去どのゆびできみに触れても別れる朝に
心臓をふたつ触れあうようにして 抱きあうなんて呼んでいたこと
狂いゆくせかいの規則は守られて見知らぬひとが燃やすごみの日
幾重にも窓をひらいた画面から〈雨が近い〉と詩片がとどく
ひとりでは使いきれない夏の空 Hey Siri わたしにわがまま言って
どれだけの嵐がきても守られるあなたの腕の白い地下街
火焔菜 火に火をくべてわたしたち怒りと呼ばれる腑をだいている
あかときのサービスエリアにふるえつつ寒さと青さ分けあうふたり
鏡から見かえす頬も濡れているわたしひとりはわたしの味方
眠れない夜はすべてが耳になる海をめざして落ちる水滴
わかってて捨てていけないものばかり春の埃はひなたの匂い
ハニーチーズトーストゆっくり指でさくあたたかいものはさめやすいもの
モンシロチョウふわりふわりと笑ってるゆうべ破いた手紙みたいに
遠くへは行けないけれどベランダにふたりの最寄りの月をながめた
傘なんてきかない雨に濡らされて黒髪ひかる夏の戴冠
わからない言語のように眺めてる怒りでさえもきみの音楽
およごうか ことばのうみでかたちなく どうかわたしを信じて。泣いて。
半券のように手わたす走り書きちぎったものはやわらかいから
白雨(はくう)のあとまちは履歴をぬりかえて言いわけひとつしない横顔
青いあおい酸素のいろの水族館みんなこころを泳がせにくる
何にならなれたのだろう捨てどきを無くした顔のないぬいぐるみ
触れたくて抱きあう、けれど心臓はたがいちがいに空白を打つ
痛まないように手折ってほしかったこの感情も花なのでしょう
(鈴木精良)
初出
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毎日歌壇 水原紫苑選 2023年1月30日・8月15日
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東京歌壇 東直子選 2021年4月4日・10月31日・6月27日、2022年7月3日・8月27日、2023年9月10日・11月19日・12月10日、2024年3月24日・9月8日
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塔 2023年1・2月号、2022年2・8月号、2023年6・9月号、2024年1月号
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毎日歌壇 加藤治郎選 2023年3月27日・7月31日
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同人誌『号外』 連作「消灯時間のあとに」
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NHK短歌 2023年12月号 岡野大嗣選
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NHKクローズアップ現代HP 東直子選
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NHK文芸選評 北山あさひ選 2022年2月26日放送
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月刊うたらば 2022年5月号
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読売歌壇 黒瀬珂瀾選 2024年11月12日
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2020年ナナロク社の短歌教室 木下龍也組
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57577展2nd 岡野大嗣選
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