【秀歌・秀作撰】第11回毎月短歌

「第11回毎月短歌」より、秀歌・秀作撰をお届けします
短歌マガジン 2024.08.23
誰でも

[次世代短歌プレミアム]

ネット月詠第11回毎月短歌現代語カテゴリより選者のみなさんに選んでいただいた作品を秀歌・秀作撰としてまとめました

■秀歌・短歌

むつごとをきのうはしたの むつごとをおとといしたの むつごとを ねえ / 短歌パンダ

校庭の犬は誰にも気づかれず土のにおいをひたすらに嗅ぐ / 琴里梨央

血まみれでレンガをかじる人がいて何科の医者を呼べばいいんだ / 汐留ライス

これ以上とろ火がなくてひねっても胸の炎がくつくつと沸く / マノチハル

学校で頭を下げる母さんが俺を一度も見なかったこと / 琴里梨央

いっしゅんの雨いっしゅんの初夏の風いっしゅんおそろいだった水玉 / 銀浪

でたらめに水面が爆ぜる沐浴は夏のけものの習性だから / 塩本抄

閉ざされたプールサイドに忍び込みテニスボールを探す放課後 / 白川 侑

自転車で2時間かけて海へいく同じくらいの汗のパーミル / 畳川鷺々

そうめんの茹で時間を思い出す毎年忘れて組み立てる夏 / ZENMI

幼子のうなじに薄いトルネードかすかに初夏の匂いのような / 梅鶏

窓際で光を浴びて午睡するあなたは夏の化身のようで / あきの つき

ほんとうはちょっとくすぐったいんです 5月の市民プールの恐竜 / 短歌パンダ

真っ白なTシャツの日は胸張って夏空をゆく帆船になる / くらたか湖春

飛行機の影がプールにとらわれて二十五メートルの夏の標本 / 宇井モナミ

どこまでもひとりぼっちの夜だった星の衣擦れさえも聴こえて / 佐竹紫円

ラブホテル 人工甘味料の中二人ぼっちでたしかめあえば / 水の眠り

生家へと続く螺旋の坂道に散らばっているわたしの欠片 / 月夜の雨

ああそうか 選んだほうを正解にするため君はゆくのか 春を / マノチハル

野の草のひとつとなって揺れること五月の風に許されている / 山口絢子

わたしたち棘にまみれてお互いの距離を知るため刺し合うのかな / ef

鳥さんの落とし物から芽を出した木が生い茂る五月の庭に / 睡密堂

紙コップ片方渡し「電話する」別れるための口実として / 白鳥

傷つかぬ言葉を探すコーヒーの氷がせかすほどの静寂 / アゲとチクワ

台紙ごと姉と一緒に嫁ぎゆきヤマザキじゃないパンを買う春 / くらたか湖春

教室の後ろの席は遠くって先生好きな人はいますか / 藤瀬こうたろー

爆発のコロッケばかり生んでいる優しい雨の降り続く夜 / 琴里梨央

風は止みただ一面に静止画の死にたくなるような新緑 / 桜井弓月

LINEには亡き母の垢残ってて「元気ですか」と送りたくなる / 藤瀬こうたろー

子どもらの祈りを終えた両手から解き放たれる透明な蝶 / 白鳥

線香の匂いは次第に薄れゆき生きることとは忘れることね / 白鳥

自分ごと裏返したい こんばんは、全ての四角い街の猫たち / 短歌パンダ

最後まで「ひらく」を押していますので、どうぞゆっくり生きてください / アゲとチクワ

占いは未来ばかりを見たがって今の私を信じてくれない / ZENMI

■秀作・連作

通勤路

   りのん

メイクって似ているものに差をつけてそれぞれの庭それぞれの花

建売は年老いて今転生し次第に住宅展示場めく

いつの日か家を買うって見る夢は主人公しか顔を持たない

憧れの戸建てか日々に階段がない暮らしかを乗せる天秤

夢じゃなく土曜のランチのためだって働かなくちゃ働かなくちゃ

角の家のバルコニーから覗いてるドラえもんには応援される

たまにしか大人の努力は光らない今日もどこかで断線してる

富士山が綺麗ですねえ振り向けば 通り雨にも気づけないけど

カーテンももう閉められておかえりをドラえもんからもらえない帰路

そういえばオリオンビールが冷えている昨日の私がくれるおかえり

水曜日の動物園

   宇井モナミ

真夜中にツキノワグマは胸に抱く満ちることなき月のしるしを

いつの日か星をかじってみたくってキリンは首を伸ばし続ける

パンダ舎の生まれなかった命のよう縫いぐるみはワゴンに積まれおり

虎でなく猫ですらない俺だけど翼求めてエナドリを飲む

悲しみの上位種として象たちは柵の向こうでぱおんと鳴いた

こっそりと悪夢の種を吸いとってバクは園児の列を見送る

終末の箱庭じみて冬の日の獣も人もまばらなZOOは

包帯をいつかほどいて縞馬はサバンナの果てへ駆け出していく

近頃はコンプラ的に厳しくて獅子は谷から子を落とさない

淋しくて死んでたまるか独りでも生きていくってウサギは跳んだ 

セカイケイ

   畳川鷺々

リフレクション、別の世界を覗いても眼鏡は顔の一部だってさ

理想的インターネット 美少女のフィギュアを下から見るな燃やすぞ

偉大なるミニマリストに迫りくる信じられないほどの配線

きみの言うクリエイティヴのヴがきらいそんなたくさん世界は要らない

怪談がそんなにあるの? ろうそくはそんなにないよ 猥談にしない?

せかいじゅう人間だらけなのはなぜ手垢だらけの眼鏡をぱきゃり

街中のみんなにわたし刺されそう誰がいっせーのって言う人

頁を繰る指のかさつきぺらぺらの世界観とか言ったりしちゃって

いつだってみんながみんな苦しいね夕陽が照らす主語のおおきさ

イヤホンを置いて踊ろう世界中ぼくらための音楽だらけ

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