【短歌のひみつ】岩倉曰「短歌が書けると錯覚し続けるためにしていること」

今回は 岩倉曰さんの短歌のひみつをおとどけします
短歌マガジン 2024.09.05
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[次世代短歌プレミアム]

短歌のひみつとは──それぞれの歌人が知るちょっとした短歌の秘訣を語っていただくという連続企画です。

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短歌が書けると錯覚し続けるためにしていること

   岩倉曰

 わたしはとにかくたくさん作る。で、比較的ましなもの以外はまず見返さない。

 と書き出してみて気づくのは、ましなものしか視界に入れないようにしているから、ましな書き手だと錯覚できているではないか、ということだ。さらには短歌を書くことによってわたしは自分をましな人間だと錯覚できる。短歌以外でこのような世界は見えたことがなかった。できるなら、この錯覚がずっと続いてほしい。となれば、無理にでも書くしかない。またあのヤベェ薬くれよ! という、あの状態だ。

 「メモ帳」のアプリを利用し、テキトーな思いつきを十行くらい書く。例えば、【速報がバナナの死を告げ、文字にならない塊を吐き出したかと思うとアナウンサーの隣にはいつの間にか人間と同じくらいの大きさの象が座っていて、昔イオンのレストラン街に一瞬だけあった定食屋の悪口を言い出した】といった具合に。人目に晒す文章なのでやや整えたが、実際はもっとめちゃくちゃだ。ご覧の通りめちゃくちゃ嘘なのだが、十行も書いてみるとその中に必ず一つぐらい、心から思っていることが混ざる。例でいう、イオンのレストラン街に一瞬だけまずい定食屋があったという部分である。この定食屋への感慨をベースに短歌を作れば、一応は真実となる。

 真実が混ざらないと、わたしの短歌はまず見れたものではない仕上がりになる。幻想的な美しさにたどり着くセンスがない、他者が紡いだ美しい幻想が持つ魅力にとことん鈍感である。そういう頭しか持ち得なかった人間がひり出した短歌が、わたしの短歌だ。(ありがちな話だと思うが、変に力んでいない、スルリと出てきた歌の方が、他者からは良いと言われがちな傾向にある)。

 さてこのようなことを書きながら、わたしはまたこの文章の中に短歌にできる部分を探している。頼むよ、またあのヤベェ薬くれよ。

(岩倉曰)

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■歌人プロフィール

岩倉曰(いわくらいわく) @wakuwakuiwaku

2016年に作歌を始め、2018年〜宮城県石巻市の若手短歌愛好会「短歌部カプカプ」所属。2020年〜歌人集団かばん所属。ラジオ石巻で放送中の「短歌部カプカプのたんたか短歌」に出たり出なかったり。三度の蟹より蟹が好き。

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