【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第41回)3月8日〜3月14日

歌人toron*さんの短歌日記をおとどけします
短歌マガジン 2025.03.19
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[短歌日記]

ナイフのように爪先立ちで 第41回

toron* 日記 3月8日〜3月14日

  ゆるせる、と思い込みたくなる夜の遠くで松明の爆ぜる音

3/8(土)

 微妙に寒くて、二度寝。二度寝は悪。ここさいきんもっとも憎んでいるものなのに、アラームをとめて再度ベッドに横たわるときは何故あんなのにも甘美なのだろう……めざめると10時前でした。

 あんなに心地よかったはずなのに、起き上がると午前中を無駄にした感が非常に強い。

 日中、抱えている今いちばん重たい原稿と恋愛短歌同好会のまとめをやっていると、献立にまったくアイディアが湧かず……肉と冷蔵庫にある野菜をなんとなく炒めて、とりあえずかたちにする。

 味噌汁もつくってみると思いのほか具の少ない仕上がりになって、自己肯定感がぐっと低くなる。

 あんまり良くないサイクルに入っているというか、1日1回くらい外に出た方が良いような気がする。ずっと家の中にいるとスイッチが切り換えにくい。しかし、いったん家に出ている時間にパソコンの前に向かった方じゃいいんじゃないか、みたいな焦りが湧いてきそうな気もする。自分のメンタルが難儀すぎる。

 ひたすら短歌にまつわる文章を書いたり消したりして一日を終える。

3/9(日)

 11時まで気を失ったようにねむる。二度寝は悪だが、二度寝以前の問題である。たぶん原稿諸々に対しての身体の逃避反応なのだろう……。

 しかし、本来、〆切があるという状態だけありがたい話なのだよな、とも思う。

 それでもきのうよりは先が見えてきたので、台所に向かうとそちらに関してもアイディアが湧いてきて良かった。常備菜にもやしナムル、高野豆腐、ささみといんげんの塩麹和え、味玉などをつくる。

 晩ごはんには長谷川あかりさんのレシピで酒蒸しハンバーグ。それとほうれんそうと半熟卵とベーコンのサラダ、えのきとうす揚げのお味噌汁などをつくる。

 長谷川あかりさんの酒蒸しハンバーグは、合いびき肉に牛乳とベーコンを加え、練り上げてつくる。玉ねぎやつなぎがなし、というのにも驚く。そのぶん、かなりゆるく仕上がるのだけど、それにバターを熱したフライパンで弱火にして、日本酒を多めに加えて蒸すように焼く。

 かなりしっかりとした食べごたえでご馳走感がある。個人的にはベーコンなしで玉ねぎを入れたいんだが、たぶん玉ねぎを加えるとゆるくなりすぎて、焼いている途中で崩壊しそう。

 夏生さんにも食べごたえがあって好評だったが、若干味が薄かったようである。もうちょっと自分の家用にブラッシュアップしたいレシピである。

 21時半から恋愛短歌同好会のキャス。今回は特に印象のばらけた六首がそろっていて、面白かった。しかも終了後に選者の直輝さんの「恋愛短歌同好会の選者が難しかった話」という延長戦のスペースがはじまって、聴かせてもらったが楽しかった。「なぜその歌を選ばなかったのか、ぜんぶ理由がいえる」という話も良かった。

 しかしスペースの方がやはりキャスより聴きやすいよなあ、と改めて思う。しかし、意見を出したり拾ったりしづらいのでもう85回もやっているのに未だにツイキャスを使用しているのである。ツイキャスのツイの部分ももう何処かに消えてしまったのになあ。

 そしてスペースを聴き終わったらもう0時半だったので、すごい速さでお風呂に入ってからねむった。

3/10(月)

 先週も来たはずなのだが、黒の組織の支店長が唐突にこちらの会社にきて、こちらの部長となにやら会話して帰って行って不安におののく。何用で? おそろしすぎるんだが……しかし組織員たるもの淡々とやっていくしかないのが悲しいところ……。

 帰宅したら夏生さんがご飯を炊いてお味噌汁をつくってくれていたのだけれど、メインが思い浮かばなかったらしく、ソファにうずくまっていた。

 わたしがまだ上着を着てかばんもおろしていない状態だったが「小松菜とひき肉があるから、炒めるだけでも……」というと、「いいと思います」と返されたので、「え、わたしがやったらいいの」と返したが、帰ってから0分なのにおれがこれからつくるんかいというオーラがぶわっと出てしまったようである。

「いや、自分がつくるんで……」と夏生さんが傷ついた感じにこたえて、無言で小松菜とひき肉を炒めるなど。

 気まずい……が、今のは自分が良くなかった。あまりにも余裕がなさすぎやろ、と思う。小松菜とひき肉はオイスターソース炒めに仕上がっていて美味しかった。

 近頃、つくりたいもの、というよりか食べたいものが浮かばないことが多いので、ためしにそれについてGrokにきいてみた。

すると「選択することに疲れているのでは」と返される。それについても、いくつかアドバイスをされるが、なるほど……ってゆーか、むかし藤崎竜の短編漫画で、AIの完全な管理下にある世界で、人類はくつしたの履き方すらも解らなくなって、AIに教えてもらっている、という話があったが、そういう光景がもう実際にあり得そうだな、と思った。

3/11(火)

 まだ肩がバッキバキになるほどではないが、逆算すると今日を逃すと整形外科に行けるのは来週の月曜日ということに気がつく。しんどくなる前に行くの、めっちゃ大事。

 ということで、仕事終わりに整形外科に。ここの整形外科は特に先生を指名できないシステムなので、どの先生にあたるかは毎回ランダムである。

 自分としては、志磨遼平似の先生が、施術内容的にも志磨遼平ファンとしてもうれしいところであるのだけれど、なかなかあたらず……しかし、きょうの先生もなかなか良くてラッキーだった。

 揉むのではなく、ツボ押しに特化した感じの施術なのだけど、思いのほか終わるとすっきりする。最初の施術のときなどは物足りなさを感じていたときもあったが、結果的に揉み返しが断然少ないのであった。

 そしてこの先生は施術中に雑談的な会話をほとんどしないのもありがたい……しかしそんな先生にきょうは施術中に「肩も首も腰も足も、きょうはボロボロですね……」とボソっと云われてしまう。そんなに……?

 帰宅したら20時過ぎ。晩ごはんはマルちゃんのあんかけラーメン。夏生さんは明日4時起きなので、既に食べ終わって風呂に入るところだった。

 原稿、少しだけ進めたあと、3月後半に参加する、批評会の歌集を読み返す。

 ここ最近、この本と原稿関連の資料的な本しか読んでいないので、脳内に謎のしんどさがわだかまりつつある。原稿終わったらぜったい小説に没頭だけする時間をとるぞ。

3/12(水)

 きょうはテレワーク。あんまり天気が良くはないのだが、仕事後、二月堂のお水取りを夏生さんと見に行く予定にしているので、楽しみである。

 仕事が終わってすぐ焼きそばなどをつくる。

 しかし1月に夏生さんの体調が悪くなったあたりから、できるだけグルテンを控えたい気持ちでやってきたのだが、今週あんまり余裕がなくて結局こういうメニューになりがちである。小麦のワンプレートメニューの偉大さ。

 まあ、カレーという選択肢に関してだけは、米が高くなったことでなんとか抑えられてはいるが。いや、でもカレーは食べたいな……米をたくさん使わざるを得ないメニューを避けるようになってずいぶん経つ……。

 という葛藤はあったものの、焼きそばを食べてから東大寺二月堂に。自宅からは歩いて45分くらいである。

 いちおう最寄り駅なのだが、家から駅までそれなりにあって、かつ駅から二月堂までまあまあ距離があるのだった。でも夏生さんは「車で20分以内は近い」という山中に住んでいたひとの感覚なので「晩ごはん家で食べてから歩いて見に行けるのいいなあ」と云っていた。

 実は去年も見に行っていたのだけど、去年と違って今年は本番の日……松明を掲げて二月堂の上を走る祭事は、3月1日から2週間毎日行われているのだけど、きょうはそれに加えて深夜に井戸から「香水(こうずい)」という聖水を汲み上げる。この「お水取り」の総決算的なイベントがあるため、この松明の時間からかなりの人出であった。

 開始15分前くらいに着いたものの、二月堂がまだ全然見えない場所……200メートルくらい手前で待機させられる。この日に限っては、祭事がはじまったら少しずつ前の方に列ごと移動するらしい。ただそのために、前で見終わったら、すぐ帰りの順路に向かうことになるらしいので、それはちょっと残念……去年も思ったのだけど、毎年この「お松明」はYouTubeやニコ動で配信されているらしいので、別日のそれを見てから、現地に来た方がいいのだろうな。

 各所でモニターが置かれているので、そこから境内の廊下で明かりがゆっくりと階段をのぼってくるのが見えた。特に合図があってはじまる訳ではなかったのだけど、やはり松明の大きさに迫力があって、じっと見てしまう。モニターの中を無音で火の粉が落ちてゆく。

 それから20分くらいしてから列がゆるゆる移動して、最終的に二月堂の真下に行けた。松明をかかげて走ってくる童子の、その周辺の張りつめた空気も見えるようだった。

 深夜の香水を汲み上げるところも見たかったのだけど、さすがに今年はちょっと難しく松明だけ。……でもかなり満足した。

 お水取りが終わると奈良にようやく春がくるといわれている。身体の内側も外側も、春になった気持ちで帰路につく。

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