第20回毎月短歌・3首連作部門(選者:森本 有さん)選評発表
[次世代短歌プレミアム]
(選者の原稿を預かり、編集部で記事化させていただきました)
皆さんこんにちは、森本有です。
先月の「毎月短歌19」に引き続き、今月も3首連作部門の選をさせていただきました。
最近食べ物のカロリーをチェックすることが増えましたが、僕の場合は「カロリーと精神的な満足感にはあまり相関が無い」ことに気づきました。これは非常にラッキーなことです。
さて、今回は特に私が好きだったものとして4つの連作を「特選」「準特選」としました。
早速ですが発表します。
特選(2作品)
冬の、わたしの音を探して / 畳川鷺々
水であるから / 夏谷くらら
準特選(2作品)
春の雨 / 空飛ぶワッフル
充電が足りない / きいろい
■選評
選出した連作について、それぞれの評を以下に記します。
特選 冬の、わたしの音を探して / 畳川鷺々
3首を通じて音の手触りがすごくリアルに伝わってきます。冬の冷たさと「わたし」の模索がずっとリンクしていて、読んでいて思わず息を止めてしまうような感覚がありました。冬の景色が鋭く切り取られていて、でもそれらが「音」を軸にしてつながっていて、素敵な連作でした。
春遠し わたしの通奏低音を見失ったまま叩く鍵盤
自分のベースラインを見失いながら、それでも鍵盤を叩く。個人的には冬の放課後の底冷えのする音楽室の冷えきった空気とこわばった指の感覚を思い出しました。春が遠いぶん、自分の存在感を必死につかもうとしているようにも読めて印象的です。
かじかんだ運指のなかに今だけのうたが震えているらしいこと
うまく弾けないもどかしさのなかで、今この瞬間だけしか生まれない音色がある。その尊さというか儚さが、「震えているらしい」というあいまいな表現に集約されているのが、なんだか好きな帰結です。完璧じゃないからこそ宿る尊いものってありますよね。
特選 水であるから / 夏谷くらら
全体を通じて「水」というものがさまざまな形で「透明感」や「儚さ」を携えて登場しています。読み手によってはどこか神秘的だったり、あるいは愛のメタファーだったりといろんな解釈が広がると思いますが、何より3首の流れが綺麗なんですよね。ひとつひとつが独立しながらも大きな川のようにつながっていて、まさに「水であるから」こその流動性を感じてとても好きでした。
窒息をすればするほど透けてゆくいちばん熱い氷があなた
「窒息」と「透ける」というちょっと対極的なイメージが並んでいるのが面白いですね。しかも「熱い氷」という逆説的な存在が「あなた」。どうしようもなく苦しくなるほど、相手が鮮明になっていく感じの切れ味が素敵です。
柔らかいティーカップになるふたりとも吐息ひからす真冬の朝は
水のイメージから一転、「柔らかいティーカップ」へ。でもこれも液体と器、そして吐息という形で、見事に気配の移ろいを続けているように思えます。雪の降る朝、あったかい飲み物の湯気を一緒に眺めているふたりを想像しました。
準特選 春の雨 / 空飛ぶワッフル
「春の雨」という題のとおり、どこか湿り気のある空気が全体を覆っていて、独特の景色へ引き込む力がある連作です。電動バイクのジャージ少女から街の寂しさ、そしてマイマイと、バラバラなモチーフが意外とちゃんと「春の雨」で束ねられているのが面白かったです。
あとさきもなく這いだしたマイマイが次々雨にうたれれば春
思いがけず這いだしてきたマイマイが雨に打たれて、それが春であることを知らせてくれます。教科書的な時系列や因果関係を超えて「あとさきもなく」という無造作さによって春という季節のわくわく感が強調されていて、計算して入れているんだったらすごいと思いました。
準特選 充電が足りない / きいろい
3首ともあっという間に場面が切り替わっていって、読んでいるときのテンションが高くて、なんだかギャル・マインドを感じる作品でした。実際「充電が足りないくらい笑ってた」というフレーズが冒頭にあると、こちらも一緒に笑ってしまうような感覚があります。どこかコミカルなんだけど、最後には新天地へ向かうようなパワーも感じられて、ワクワク感のある連作です。
花束を帯刀したら街を出る開国するの今日でよかった
「花束を帯刀」の、凶器のはずの刀が花束になっている、でもそれでもどこか“闘う”感じを残したままのイメージが好きです。カラオケやマックといった現実的なシーンが先にあっただけに、最後に開国まで飛んでいくのが春らしくて好きですね。
以上です。
読んでくださりありがとうございます。
それではまたどこかで。
森本 有(@forest_book_san)
以下、入選全作品全文のご紹介です(編集部追記)