第19回毎月短歌・3首連作部門(選者:森本 有さん)選評発表
[次世代短歌プレミアム]
(選者の原稿を預かり、編集部で記事化させていただきました)

皆さんこんにちは、森本有です。
先月の「毎月短歌18」から変わり、今度は3首連作部門の選をさせていただきました。
近所にものすごーく美味しいサンドイッチ屋さんを見つけたので、毎週末食べに行って嬉しい気持ちになっています。
さて、今回は特に私が好きだったものとして3つの連作を「特選」「準特選」としました。
早速ですが発表します。
特選(1作品)
じゃん・けん・ぽん / ケムニマキコ
準特選(2作品)
夜を迎える / きいろい
ゲームセンター / 架森のん
■選評
選出した連作について、それぞれの評を以下に記します。
特選 じゃん・けん・ぽん / ケムニマキコ
初めて3首連作というものを一定量読んだんですが、最も3首連作というフォーマットを活かすことができているのがこの連作だと思いました。じゃんけんという遊びの行為が「神様」や「平和」といった大きなテーマに自然に紐づいていて、グー・チョキ・パーのそれぞれの手が日常とは異なる意味をまとって迫ってきました。
1首1首の強度も高く、文句なしの特選です。
神様の似姿として僕たちの握れば骨の浮き出る拳
確かにグーの形にするとしっかり骨が浮き出てきますよね。あらためてまじまじと自分の手を見てしまいました。
ここではキリスト教における神と仮置きしますが、聖書に書かれているところによれば神は200万の人間を殺したそうです。もちろん神の場合は世界の調和を保つためにその行為に及んだのでしょうが、その「似姿」である僕たちも同じように人間を殺す能力を持っています。1首目からインパクトの強い歌です。
Victory/あるいは平和 指先はいつも何かを裁ち切るかたち
チョキの「裁ち切る」性質。「勝利」を「平和」と対比させるのがこの歌のすごいところで、「勝利」も、だれかにとっての「平和」も、両方とも破壊や分断を内包しているということを思い出させてくれます。平和を象徴する指先が、実は何かを裂き離す行為そのものだったんだ、と。
包みこむこと、それさえも勝ち負けで桜を揺らすようにさよなら
包みこむ形のパー、それすらも「勝ち負け」に回収されてしまうという辛辣さ。本来は人や物をやさしく包むはずの手のひらなのに、社会や関係性のなかで勝ち負けに変質してしまうんですね。その不条理を「桜を揺らす」というイメージに重ね合わせることで、切なくて綺麗な読後感をもたらしてくれます。
準特選 夜を迎える / きいろい
夜という静かな時間帯を、規則的な日常や時間の流れから解放される「やすらぎの場」として描いている点が素敵です。読んでいて、深い夜のなかでふわりと浮遊するような、でも毛布にくるまって安心しているときのような、そんな不思議な感覚の連作です。
青信号渡らなくてもいいんだと気付いてからは歩くのがすき
別に青であっても渡らなくてもいい――そんな小さな発見が、ふっと生活を軽くさせてくれます。「歩くのがすき」というシンプルな言葉から、人生への愛を感じられて素敵です。
信号のランプひとつを増やすなら白色がいいみんなで眠れ
もしも信号機に新しい色を増やすなら、それは「眠れ」をうながす白。赤・黄・青とは異なる、休息や静寂を示す光が夜の世界に優しく灯るようで、あたたかい歌です。でもこれって一方では「眠らなくてもいい」んですよね。そういう種類のやさしさ、包容力が夜にはあるなぁ。
準特選 ゲームセンター / 架森のん
クレーンゲームやプリクラの軽さと、そこに差し込む死や孤独の影が同居している連作です。表向きはポップでにぎやかな雰囲気が漂いながら、実は静かで冷たい感覚を密かに抱えている、という二面性が魅力だと感じました。3首連作としての完成度も高いですが、この感じで20首くらいあったらぜひ読みたいですね。
金貨チョコゆっくり回る金貨チョコ降り注いでく 指のつめたい
きらびやかな金貨チョコのイメージと、「指のつめたい」という身体感覚が対照的です。メルヘンのようでいて、一方では現実の冷えを思い出させるコントラストが印象的で、うまい人が作る短歌だ!と思いました。
プリクラを遺影にしたい のびすぎたまつげの奥は光輪を持つ
プリクラと遺影が結びつくことによって生まれるポップさと冷たさの同居、この連作の核のような歌です。可愛らしさを携えたまま「永遠になる」イメージが、不意に死を連想させる。こういうの好きだな~!
以上です。
読んでくださりありがとうございます。
それではまたどこかで。
森本 有(@forest_book_san)
以下、入選全作品全文のご紹介です(編集部が追記しました)