野上時雨・自選短歌集

今回は野上時雨さんの自選短歌作品をおとどけします
短歌マガジン 2025.03.11
誰でも

[次世代短歌プレミアム]

■歌人プロフィール

野上時雨(のがみ・しぐれ) @no_sigure

元々小説を書いていた延長で2024年3月頃から短歌を作り始めました。毎日20時に新作短歌をXにあげています。同じものを飽きるまで食べますが、飽きないのでずっと同じものを食べています。

***

[野上時雨・作品集]

自選短歌集

  野上時雨

恋でした あれが恋ではないのなら恋など知らず死にたいほどに

照らすより暗闇を濃くすることで光をくれた人もいること

さようなら 振り返らない君を見ることで私も前を向いてた

痛みとは熱を伴う衝撃で冷たいこれは多分悲しみ

まだ暑いうちに感じたあの熱は夏のせいではないと知ってる

完璧と呼べない自分を愛せないそんな貴方を愛しています

生徒会選挙に敗れた山崎は七福神に立候補する

Twinkle 学校一の優等生 僕にとっての一等星

右へ行くために三回左折する 愛するということの身勝手

神様のポートフォリオの「にんげん」というページには君が載ってる

複製の愛で愛していることに気づいた君の優しい眼差し

痛くない傷つき方を教わって渡せないまま枯れた花束

神様と地球が僕を取り合って結局元に戻るコースター

優しさは義務ではないよ 咲く花は人を選んで微笑んでいる

「ごめんね」で許されるから警察のいらない僕らの独立国家

スイミングスクール通うばあちゃんは三途の川をタッチで帰還

愛された体は形状記憶していとも容易くまた愛される

ピクシブの検索履歴を見せられる奴には何を言っても無駄だ

底なしに明るい君の底にあるライトを誰も見たことがない

私たち互いが互いの狼で互いが互いの満月だった

3分が経ってウルトラマンは去り怪獣はまた一人になった

熱なんか知るんじゃなかった あとはもう冷めるのを待つだけのコーヒー

好きというたった二文字が言えなくて覚えてしまったたくさんの比喩

いくらでも針を飲むから約束を全部破ってきみに会いたい

友達でいようと言った君とみる花火の音はほとんど銃声

遠い日に2人で傘を差したこと それがほんとの傘であること

失ったことであなたが永遠になってしまって一人で歩く

暖かい場所を知ってる老猫は最後にあなたの腕を選んだ

いつだって背中を押してくれたのにこんな時には抱き寄せるんだね

優しくはなれそうにない毎日に補助線を足す数学教師

(野上時雨)

***
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