友常甘酢・自選短歌集

今回は友常甘酢さんの自選短歌作品をおとどけします
短歌マガジン 2025.03.07
誰でも

[次世代短歌プレミアム]

■歌人プロフィール

友常甘酢(ともつね・あまず) @azukicreamcup

2017年作歌開始。ここ数年は新聞歌壇などによく投稿しています。川柳や俳句も大好きです。この感じだと、おそらく一生短歌を詠んでいくんだろうなと思っています。毎日歌壇賞受賞。

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[友常甘酢・作品集]

自選短歌集

   友常甘酢

鳥籠のような家庭とエサ台のような家庭がある住宅地

この世から電子レンジと百均が消えても生きていける力を

人、桜、人、人、桜をくぐり抜け薄いニットの腕を摑んだ

うっすらと輪郭だけが見えていた遠い岬が脆く崩れる

「でも、それは仕方なかったことだよ」と君に言わせる私の狡さ

一本のバイクの音が埋めていく無言を交わす通話の上を

透き通る雨でも街を黒々と塗り潰せるよ君も雨だよ

休火山みたいな人の口数が減っているのに皆気付かない

たまにしか作らぬ君の炒飯がとてもおいしいちょっとつまんない

真っ暗な未来に針で孔をあけ星を作って眺めてたっけ

まだ灯る花火を水に沈めたの消さねばいけない光だったから

飾っても飾っても地味なわたくしが真摯に選ぶ凄い柄シャツ

窓際でシガーを咥えるようにしてぼんやりしゃぶっている芋けんぴ

「片思いが一番楽しいよ」と言った人から香る化粧の匂い

蔓薔薇を両手でむしり取るような気の鎮め方しかできなくて

若い頃使っていた着信音が急に聞こえて引き戻される

ステロイド軟こうを子の背に塗る眠りの森でつまずかぬよう

早起きをすればひとりになれるから そんな理由で五時のリビング

「ごめんね」と言われてそこでごめんねと言われる側だと気づきうつむく

君がいて普段通りに笑っててその背景が違うだけの日々

強引にひとつのケーキを分けあえばフォークで切れず吹っ飛ぶ苺

表情に怒りを出さず謝罪する額に眠る角が目覚める

将来は介護施設で懐かしのパンクロックを聴き眠るのか

私から盗んだ金でプレゼントを私に買った友がいたこと

鉛筆の音硬く鳴るテストにて子らの隠さぬあくびやわらか

子供らに公園の水は伸ばされて真夏の空は口を開けたり

正直に言わずに嘘をつく方が大変だったね優しかったね

叱られて部屋に籠って出てこない子の夕飯のラップが曇る

昨年の海の話をまたしてるよかった君を旅へ誘って

その人の悲しみ全部呑み込んで口から虹を出すべきだった

(友常甘酢)

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