第19回毎月短歌・連作部門(選者:スズキ皐月さん)選評発表
[次世代短歌プレミアム]
(選者の原稿を預かり、編集部で記事化させていただきました)

はじめまして。スズキ皐月といいます。この2月の回からしばらく毎月短歌の選者をつとめることになりました。
ふだんはリアルやネットで誰でも参加可能な歌会を開きながら、みんなでどんどん短歌をうまくなれたらな~と活動しています。
今回選者をつとめることになり、 投稿された連作の多さに驚きつつ、皆さまの短歌に対する熱意や、それぞれの個性が出ている工夫を感じながらこちらも勉強させていただきました。
今回は首席、次席、三席と順番を設けてよかった作品に触れていこうと思います。
首席
『プリズムの檻』ケムニマキコ
次席
『ほかのすべてのやさしいものたち』石綱青衣
三席
『組合員より』てん
首席『プリズムの檻』ケムニマキコ
おそらく監獄のような環境や母親への複雑な気持ちが詠まれていて、難しい題材を扱いながらそれがストレスなく読めるようになっていたのが好印象です。全体として命であったり身体などの感覚や温度感を感じることができて読み応えがあります。また連作として歌の配置もよくて、
さようならアクリルの川隔たれておかあさんって初めて呼んだ
は最後のひとつ前の歌ですが、この連作の一番の盛り上がりポイントとして読めて、 それまでの歌で溜まったエネルギーに対するカタルシスとしても働いています。
他にも面白い歌はあります。例えば、
さようなら血を分け合った蚊を潰す祈りはいつも棺のかたち
の見立ての良さなど、一首だけでも面白い歌で連作が組まれているのも嬉しかったです。
この連作を読んだだけでは詳細な状況や人と人の関係性は見えてこないのですが、そこも謎として読み味になっています。
次席『ほかのすべてのやさしいものたち』石綱青衣
一首一首の完成度で言えばこの連作は今回投稿して頂いた作品の中でもかなり目を引きました。
いいえ、空のにおいをもっと嗅ぎたくてキリンの首は伸びたんですよ
連作の一首目にこの歌を持ってきたのはインパクトもあって良かったです。「いいえ」から入ることで主体の他者への拒絶感を出していて、連作全体の雰囲気に大きく貢献しています。
どの歌も扱う動物たちへの憐れみが込められており、それを詩的表現へと昇華させています。好みの連作でした。
三席『組合員より』てん
どの歌にもクスっと笑ってしまうようなユーモアとかわいらしさがあって楽しく読める連作でした。
劇場の椅子の下には逃げ出したポップコーンの集落がある
誰でも映画館でポップコーンを落とす経験はあるでしょう。そしてそれが見つからないこともよくあることです。この歌を読んだ人はこれからポップコーンを見失うたびにこの集落に想いをはせるのではないでしょうか。それだけの強さのある歌だと思います。
良い歌が多かったので三席に選ばせていただきました。
おわりに
選者をつとめさせて頂いてこの連作部門の難しさを一番感じたのは、やはり連作の歌の数が決まってないことですね。 今回は次席三席と6首連作でしたが、 初読で上位に残した連作はだいたい 10 首以上ある連作が多かったです。
その中でもスズキが特にストレスなく読めた連作の特徴としては、やはり読む側を飽きさせない工夫が凝らされている連作です。例えば結句の語尾にバリエーションを持たせていたり、 品詞が同じものばかりにしないようにしたり、 韻律をいろいろと試していたりする連作ですね。
魅力的な歌が並んでいても、例えば全部やほとんどが体言止めとかだと連作が平坦に感じてしまうというのはよくあることです。何らかのコンセプトを持たせて並べた場合は例外ですが。
もちろんここで書いたのはひとつの方法でしかないので、自分の連作に合った見せ方を探っていきましょう。
以上です。また来月も皆さんの作品を楽しみにしています。ではでは~。
スズキ皐月(@hyousyoku83)
以下、入選全作品全文のご紹介です(編集部が追記しました)