【短歌とエッセイ】夏山栞「そしてタコライスに至る」

本日は夏山栞さんの短歌+エッセイ「そしてタコライスに至る」をみなさんのもとへお届けします
短歌マガジン 2024.06.08
サポートメンバー限定

[次世代短歌プレミアム]

■夏山栞プロフィール

夏山栞(なつやましおり) @72yama_tanka

2018年頃より短歌投稿サイト「うたの日」にて作歌活動を開始、2023年よりかばんの会所属。ド近眼で長年コンタクト生活を送ってきたが、数ヶ月前に素敵なメガネを買って以降は半メガネ党に。メガネをかけていると知り合いにも全然気付かれないので、密偵の才能があるかもしれないと密かに思い始めている。

[短歌とエッセイ]

  そしてタコライスに走る  夏山栞

 友人たちと、四人で一軒家をシェアして暮らしている。

 と伝えると、「楽しそう、毎日ホームパーティーみたいな感じなんじゃない?」なんて言われることもあるのだが、残念ながらそんなことはない。住んでいるのは仕事やら趣味やら、日々なんらかの締切に追われるタイプの引きこもりがちなオタクばかり。互いの生活リズムも合わないので、その日交わした言葉が「……オース(疲れきった声)」「……ウィース(寝起きの声)」だけなんてこともザラにある。我が家から漏れ聞こえる声があるとすれば、それは華やかな食卓を囲んで談笑する声ではなく、ままならない原稿の進捗に呻くゾンビのような声の可能性が高いだろう。

 そんな有様なので、ひとつ屋根の下に住んでこそいるものの一緒に食事をとることもあまりない。冷蔵庫はざっくり四分割のエリア分けがなされていて、食材を買うのも調理をするのも、基本的にはそれぞれが自分の分だけを行うのがハウスルール。あまりコスパの良いやり方とは言えないが、今のところはそれでうまく成り立っている。

 さて、今年の五月の話である。同居人のひとりであるムーちゃんが沖縄旅行へと赴き、山ほどのお土産を抱えて帰ってきた。紅芋タルト、ちんすこう、海ぶどう……そして、私の大好物であるタコライスの『もと』。頼んだわけでもないのに流石のチョイス。人生で持つべきは沖縄へ旅行する同居人である。

 タコライス――タコスの材料を白米の上にのっけた、沖縄のローカルフードだ。スパイスの効いた牛挽肉にレタス、トマト、チーズなどの具材をお好みで合わせて白米にオン、仕上げにサルサソースをかけて食べるのが一般的だと思う。ムーちゃんが買ってきてくれたのは調理済の味付き挽肉とサルサがセットになった『もと』で、つまりそれ以外の具材は自分で用意するタイプのものだった。

 ムーちゃんの帰宅がちょうど昼食時だったこともあり、空腹だった私はパッケージを見た瞬間「タコライスの舌を持ちし者」へと変貌した。いやもう、今日の昼は絶対にタコライス食べたい。何がなんでも食べたい。米なら冷凍してあるわけだし……ってな具合だ。でも、実際には足りない食材が結構あるわけで――

この記事はサポートメンバー限定です

続きは、2099文字あります。

下記からメールアドレスを入力し、サポートメンバー登録することで読むことができます

登録する

すでに登録された方はこちら

誰でも
短歌の日大賞2025 受賞者発表
誰でも
【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第52回・最終回...
誰でも
短歌ネプリ研究会「ココネプ」第1期・ネプリまとめ(PDF版)
誰でも
短歌の日大賞2025・テーマ「肉」(選者:土居文恵)選評発表
誰でも
【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第51回)5月1...
誰でも
鈴木晴香クラス「基本からはじめる短歌の作り方」勉強会7月開講
誰でも
とかげまろぅ・選評「短歌まってます」第2回テーマ「鳥」
読者限定
服部真里子・選評「短歌まってます」第2回テーマ「鳥」