【新作】塩本抄「ポテトチップス・クライシス」短歌とエッセイ
[次世代短歌プレミアム]
■塩本抄さんプロフィール
塩本抄(しおもとしょう)
2021年3月から短歌を詠んでいます。マイペース歌人会、A短歌会に所属。ときどきうたの日。ふだん石川、たまに長野にいます。土地やふるさとへの想いが詰まった短歌が好き。#ふるさとうた で教えてくださいね。 https://twitter.com/tankanosio
[短歌とエッセイ]
「ポテトチップス・クライシス」 塩本抄
食べることが好きだ。幸いアレルギーがなく、また好き嫌いも激しくはない方だと思う。
しかし食べ方に品がないことを自覚している。いや、いっそ野蛮と言っていい。
お年頃なので人前ではしないものの、骨付き肉なら軟骨までこそげて食べたいし、西瓜なら顔じゅう汁まみれにしてかぶりつくことに快感を覚えるたちだ。ああ、ウィンナーの咀嚼音を奏でるキッズたちよ、母はおまえたちが心底羨ましい。
一方夫の食べかたはとてもきれいだ。まず箸使いが美しく、魚であれば芸術品のように骨を残す。果物についてはできる限り汁の出ないものを選び、ピックが刺さっていると嬉しそうに食べる。みかんが苦手なのは皮を剥くときに手が汚れるからだそうだ。汚れの可能性によって食欲減退する人種を、わたしは夫の存在によって知った。学びイズ出会い。正気かこいつという気持ちでみかんを口へ放り込みつつ、それを分けてくれたことに礼を述べた。職場の先輩の唱え言葉がよみがえる。感謝には、タイミングが、だいじ。夫の穏やかな微笑みに安堵する。先輩、ありがとうございます。
そんな我々夫婦は子どもを寝かしつけた後にささやかな団欒のときを過ごす。仕事の愚痴や子どものことなど、なんでも話しながらご褒美おやつをつまむ。おやつを買うのは大概夫だ。彼はとても優しいので、わたしの好きなポテトチップスをたびたび仕入れてくれる。わたしは大喜びで袋を開ける。ポテチって食べる直前が幸せの絶頂じゃないですか?至福の心地で二枚取りをして口へ運んだ。ばりばり、ざくざく。順調に肥える音がする。いいんだ、明日は子どもたちと公園で追いかけっこするから(しない)。
やがて夫はおもむろに立ち上がり、部屋を出ていった。ぼんやり見つめながら、最後の三枚をまとめて口へ運ぶ。うンま〜〜っ。濃厚な海苔を咀嚼し終えたころ、夫が掃除機と掃除用シートを手に戻ってきた。
「立って」