[短歌日記] toron*「ナイフのように爪先立ちで」6月15日〜21日

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短歌マガジン 2024.06.22
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ナイフのように爪先立ちで

toron* 日記 6月15日〜21日

 振り返るたびにきれいな足跡でありたし鹿と池のほとりへ

6月15日(土)

 休日。昨晩1時過ぎに寝てしまったが、7時には起きた。近鉄で大和西大寺まで行って、ならファミリーに夏っぽいものを買いに行く。大和西大寺は大阪でいうところの梅田っぽい場所(と思っているのだが、規模が違いすぎる……)で、買いものに便利なエリアなのである。

 ユニクロでエアリズムのワンピースとパジャマ、無印で水筒とカレー2種類、チーズダッカルビの素を買う。日傘も物色してみたものの、値段と機能的にネットの方が良さそうな気がしてここでは保留。

 去年の7月1日に奈良に引っ越してきたものの、荷物を解いたり大きめの家具を買い足したりしていたら、一瞬で夏が終わってしまったので、夏に対しての備えが全くできていない。

 ちなみに、日傘は今年、生まれてはじめて使おうとしている……自作に「内側の骨をさらしてうつくしい日傘のなかで全きひとり」とかあるのですがね、実は……。

 これまで歩いているとき片手が塞がるのがめちゃめちゃ嫌だったのだけど、去年たんたん拍子で熱海に旅行に行ったとき、わたし以外の女性は全員日傘を使っていて、そして、熱海の日差しの厳しさに呆然としたのだった。……といっても、結局去年は大阪の職場と奈良の家を往復しての新生活に脳のリソースをとられていて、熱海から帰って来て即購入はしなかったのだけど、さすがに今年は学習したい。

 夜はひさびさに外で食べる。近鉄奈良駅の「ロジウラパーク」という燻製屋さんに夏生さんと行く。燻製ハイボール、燻製明太子とホタテ、八角の香りの効いた煮豚などを食べる。どれも美味しかったが、店員さんのふたりがどちらも無言ですっと夏生さんの隣に現れて、注文の品を置いて去っていくところにアサシンっぽさを感じた。アサシン特製燻製ハイボール、美味しくてそればかり飲む。めずらしく短歌の話などして、「目標とか書きたいことってあるの?」と訊かれたりした。目標とか書きたいこととはまた違うのかもだけど、塚本邦雄のように晩年までキラーフレーズをつくり続けたいなあ、とは思う。「身体髪膚は父母より享けてその他の一切は世界からかすめとる」が収録されている『魔王』は確か73歳のときの歌集だったりするし。

 お店を出ると雨が降っていた。寝る前に塔の月詠をなんとか清書する。

6月16日(日)

 きょうは長谷川麟さんの歌集、『延長戦』の批評会に梅田まで行く。前日飲んだけど緊張感があったので自然と起きられて良かった。

 行く前に来週のおかずのつくり置きをする。パプリカ、万願寺唐辛子、ナスとちくわの焼きびたし、長芋のポテトサラダ。キャロットラペ、味玉。岬さん情報の、任天堂大阪支店限定ピクミンもゲットして、余裕の時間で会場に着いた。

 「『延長戦』はいい歌集、なのか?」というのが副題ではあったのだけれど、良い歌集なのか悪い歌集なのか、に焦点を絞って討議する訳ではなく、あくまで「歌集批評会」というかたちだった。そりゃそうか……。ちなみに司会は瀬戸夏子さん。パネラーは永田淳さん、土岐友浩さん、瀬口真司さん。

 司会の瀬戸夏子さん、司会なのでレジュメがないのだけど、けっこう『延長戦』への着眼点、というか名言が多くて、いろいろメモを取る。面白かったのは「歌人は最後に、たとえ穂村弘であろうとも『茂吉最高』『佐太郎最高』になる」など。そういえば、塚本邦雄も前衛短歌だけれど、『茂吉秀歌』とか著書にあるものな……ちなみにこの茂吉、佐太郎への言及は、ほむほむへの予言という訳ではなく、茂吉・佐太郎は短歌を語る上での「物差し」なので、やはり読んだ方がいい、という話からでした。

 個人的には、この『延長戦』という歌集のなかに「延長戦」という章が出てくるのだけれど、その中に表題となった歌は出てきていなくて、別の章に収録されていたことが気になっていた。批評会でもそのあたりの解釈が複数パネラーから出てきて興味深かった。

 あと終了後、自分としてはめずらしく懇親会にも参加してきました。……実は自分は、たんたん拍子のメンバーを除くと友人感覚で喋れる歌人が関西ではほとんどおらず……でも、今回は山本夏子さんや、東京から森山緋紗さんが来られていたので、かなりリラックスして喋れた気がする。丸山るいさんともはじめてお話できて良かった。

 二次会には参加せず、20時には切り上げて、自分としては賢く飲めたぞ、という心持ちだったのだけれど、知らず知らずキャパオーバーしていたようで、鶴橋で降りて近鉄に乗り換えるつもりがなぜか王寺まで乗ってしまっていて、途中乗り換えたりして、結局JRで帰りついた……まだまだ賢い飲み方への道は遠い……。

6月17日(月)

 昨日は22時には帰宅して化粧も落として、夏生さんとなんだかんだ喋った記憶はあるものの、微妙におぼろげで、まだまだ賢い飲み方への道は遠い……楽しかった次の日にこそ気持ちが暗くなる気がする。

 楽しかった反動ということもあるけれど、誰かに失礼なことを云ってしまったんじゃないか、という不安感がある。そんな感じで、今日は7時を過ぎてもベッドから出られず、夏生さんにほぼ介助されて起きる。

 お弁当をつくらなかったのは久しぶり。朝も夏生さんがストックしていたinゼリーをもらって近鉄の車内で飲むなど。しかし出社してみると、意外と普通に仕事ができてしまうので、また賢い飲み方を学習せずに終わってしまいそうだ。

 昼休み、岬さんにピクミンブルームの花植えチャレンジと歩数チャレンジを一緒にしようと誘われる。達成するとアイテムがゲットできるらしい。岬さんと最近まじでピクミンの話しかしてないな。

 話といえば、今月から夏生さんの勤務地の場所が変わったこともあり、平日の晩ごはんのときは疲れ切っていて、わたしが話しかけたことを聞いていなかったり、何も返って来なかったり、そもそも向こうからは何も話しかけてこなかったりする状態で、どうしたものか……と思っていたりする。

 とはいえ、疲れているのは解るので、無理やり会話を促すのもどうかと思っていて、一度自分も疲れ切っていて、特に何も話せる状態でなかったとき、無言で食事時間が終了してしまったことがある……夏生さんからすると「疲れているので、そっとしておこう」みたいな感じだったのか、特に気がついていなかったのか、いや、一緒に住んでいるのなら訊けばいいだけなのだけど、なんだろう、わたしばかりが考えすぎなんだろうか。これからきっとこういう出来事が無数に起こって、それを乗り越えたりスルーしたりし続けないといけないことも解っているのに。

 ちなみに晩ごはんは昨日出かける前につくっておいた焼きびたしを流水麺にかけたやつ。

 メニューを見て直感的に足りないな、と思ったのか夏生さんがテーブルに着く前に無言で冷凍のからあげを自分の分だけ温めていたが、わたしにも食べるかどうか訊いてくれてもいいのに、と思ったりしてしまった。うーーむ。駄目だな、きょうは早く寝よう。

6月18日(火)

  朝から大雨。駅までの道のりで靴が浸水、スカートも下半分がびしょびしょになる。なんやこれ。いや。関西梅雨入りのようである。

 いや、しかし去年までこんな事態になっていただろうか……と、会社のデスクの下で裸足になりながら思う。去年の6月はまだ大阪で駅から近い場所に住んでいたので、こういう事態は回避されていたみたい(うろ覚え)。しかし、週間天気予報によると木曜日からその次の週はずっと雨らしいので、まじでなんとかせねばならない……。

 こういう日に限って午後から部署のメンバーで、メーカー展示会に行く予定になっていたので、乾ききっていない靴と靴下で天満橋まで出かける。ちょうど空いていた時間帯だったので、さっと説明を受けて、全員午後は直帰できそうだった。

 去年、九州から赴任してきた課長の美潮さんも一緒だったのだけれど、岬さんが帰り際、ピクミンブルームにはまっていることを話したら、自分もダウンロードしてみようかな、と云っていた。まじか。広がるピクミンの輪。ちなみにその日、岬さんは天満橋から谷九まで歩いて帰るらしい。その間、3駅あるのだけど、ピクミンはたやすくプレイヤーの生活意識を変えてしまうようだった。

 もっとも自分もその日、わりと早めに帰れたこともあり、奈良公園の周辺を歩いて帰ることにした。これがピクミン、ひいては任天堂の力ですね。

 夕方なのに鹿が猿沢池のあたりまでたくさん降りてきていた。午前中、雨だったので観光客から貰える餌が少なかったからかもしれない。

 晩ごはんは水晶鶏、きゅうりのじゃばら漬け、小松菜のお味噌汁、白ごはん、常備菜残り。

 晩ごはん時の会話について、ずっと悶々としていたけれど、まあでも、とりあえず食べるときにテレビつけたりとかするか、思い到った。しかし、わが家はテーブルについているとき、テレビが見れないふしぎな位置になっているので、ひとまずアマプラでアニメなど流す。『とんでもスキルで異世界放浪メシ』というアニメをふたりで以前見ていて途中で止まっていたので、ちょうど良かった。

 そして実際、そのアニメを見ながらだと内容的な話で夏生さんが口をひらくので、自分が悩み過ぎることにならなくて、ひとまず良かった。

自分は実家にいたときずっと、朝起きてから寝るまでついているテレビがうるさくて大嫌いだったけれど、家の潤滑油的な存在として、あの頃テレビは必要だったのだな、と思ったりもした。

6月19日(水)

 きょうはテレワーク。作業、立て込んでいてひたすら入力に次ぐ入力作業。

 お昼ごろ、飼っているかたつむりの水槽を覗くと、ちょうど水を入れてあげた容器に顔を突っ込んで水を飲んでいる瞬間で、めちゃめちゃ驚いてから感動した。

 と、いうのも、最近ネットでかたつむりに関してググっていたところ、かたつむりはどうやら水を飲む、それも水を容器に入れてあげたらダイレクトに飲む、ということをはじめて知ったので……自分は小学生の頃から断続的にかたつむりを飼っているのだけれど、かたつむりがそうやって水を飲むことを、知らなかったので懐疑的だったのだけど……いや、虫と貝の中間みたいな存在がごくごく水を飲んでいる光景は、謎の神秘性がある。

 晩ごはんは無印の素を使って、チーズダッカルビ。水菜のニラ醤油漬け。常備菜に高野豆腐と味玉、きゅうりのじゃばら漬けなどもつくり足す。

 晩ごはん時にきょうも『とんでもスキルで異世界放浪メシ』を見ているが、オークとかゴブリンとかを食べることに葛藤がないのだな。集落とか形成しているし、わりと人類に近い知性体って位置づけのような気がするのだけれど。

 確か石ノ森章太郎の『サイボーグ009』で豚のような姿ではあるけれど、その星での「人間」の位置にいる生命体を食べてしまったことでめちゃめちゃ苦悩するエピソードがあった気がするので興味深い。

 ピクミンブルームの歩数を稼ぎたかったので、晩ごはんの後で少し歩きに行く。岬さんとの歩数チャレンジ、花植えチャレンジはお互い真顔でやっていたおかげでどちらも達成してしまった。

6月20日(木)

 めちゃめちゃ仕事をやりきった感があった日に限って、黒の組織からまたよくわからない報告メールを求められ、さらに電話で15分くらい揉める。揉めながら、こうしている間にもこっちからかけた電話なので料金がわたしの方にかかっているのか、と醒めていた。

 今年になってから出向者に対して、謎に提出書類や物件内容の報告を求めることが多くなったのだけど、大概は何に要るのか意図が不明という感じで、書類作成にめちゃめちゃ時間がかかる割にそれに対してのレスポンスがない。

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