【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第28回)12月7日〜12月13日

歌人toron*さんの短歌日記をおとどけします
短歌マガジン 2024.12.18
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[短歌日記]

ナイフのように爪先立ちで 第28回

toron* 日記 12月7日〜12月13日

  カーネーション身体のなかにも活けてゆく忘れたくないことばかりある

12/7(土)

 きょうは高校の頃の天文部で集まって天体観測に。準備の最中にいろいろあって気持ちが粉砕骨折しかけるがとりあえず出発できた。

 夏生さんの車で兵庫県佐用町へ。しかしいろいろあった余波を受けて、わが家だけ夜の天体観測の説明時間を過ぎて到着してしまう……。

 とはいえ、他のメンバーが代わりに説明を聞いてくれていたので、大丈夫といえばそうなんだが、このまま夜まで気持ちが耐えられるのだろうか。

 と、いうテンションだったのだけど、実はその晩、星を見る前にメンバーがサプライズで結婚をお祝いしてくれるイベントがありまして。

 きょう来ているメンバー全員の結婚式にかつて呼んでもらっていたのだけど、自分たちは特に式などもしなかったので、このタイミングで企画してくれたのだと思う。

 サプライズはかなり苦手で、なんとか笑っている感じではあったのだけど、それでも、花束とケーキ(二段重ねだった)、プレゼントのカタログなどをもらって、天文部の今日来れなかったメンバーや後輩のお祝いムービーなどを見ていると、こんな自分にこんな熱量でお祝いしてくれて、ほんとうにありがたいな、という気持ちがにじみ出てきた。

 みんな仕事や家族などがいるなかで、動ける時間やかけられるお金があるにも関わらず、その貴重さが以前よりずっと身に染みた。

 いや、なんか素直に泣けたりしたら良かったのかもしれないけれど、そういうふうな状況に感情を明け渡してしまうの、なんだか難しいな、と思った。でもその日、星を見れるような心持ちでは正直なかったので、ここでこうしてお祝いしてもらえて良かったのだとも思う。

 あ、肝心の星もいろいろ見たのだけど、ちょっと今日は長くなってきてしまったのでまた明日につづきます。

12/8(日)

 さて、肝心の天体観測なのだけど、薄い雲がかかって星あまり見えず……ってゆーか、ここ3年くらいずっと天候運に恵まれておらず、なんとなくは見える、を繰り返している。

 それでも、天文台(なゆた望遠鏡という口径2mの日本国内最大級の望遠鏡)を使って見せてもらうとかなりくっきり見えた。

 ここで見せてもらった星、天文部時代も全然見てこなかった星ばかりで、つまりけっこうニッチだった。

 そのつどスマホでメモはとっていたのだけど、例えばカシオペア座のアキルド、アンドロメダ座のアルマクなど……天文台の職員の方が、この望遠鏡でこそ見える星をえらんでくれているのかと思う。実際、二重星などはかなり個別の星として視認できた。

 その後はコテージの前で双眼鏡をつかって星を見たり。

 部長の娘のななこちゃん、1年ぶりに会うのだけど去年より全然喋ってくれて、しかも僕っ子になっていた。部長曰く、推しがさらに増えて家庭内の課金がたいへんらしい。小5なのにもう推しとかそんなにたくさんいるんだな……。

 そして日付が変わる頃に熊のアナウンスが突如されて、ハルさんの姪のモカちゃん(今回初参戦)が怖がる。

 ふだんから『ゴールデンカムイ』の影響が強いので、熊と聞くとついヒグマを思い浮かべてびびり倒したが、どうやらアナウンスをよく聞いてみると、熊は熊でもアナグマらしい。

 アナグマって見たことないのだけど、スカンクみたいなイメージで良かっただろうか。かわいいやん。

 1時ごろまで観測して、星自体はぼやけるタイミングも多かったが、ふたご座流星群のピークが近づいているからか、流れ星も何個か見えてとても良かった。

 しかし解散してからも、みんなでウノと神経衰弱(小学生の集中力がすごい)などをやっていて、本格解散したのは2時半くらいであった。

 大人になってからする神経衰弱って、ほんとうに神経を衰弱させながらするなあ、と思った。

 翌日の体力気力で、帰ってから恋愛短歌同好会のキャスとかできるのか、本気かよ……と思っていたが、特に問題なく喋れて自分もびっくりした。まあでも、一応これを7年やっているんだものな。

 しかし運転していた夏生さんはやはり疲労困憊していた(でも寝る前にちゃんと美顔器をあてながらハーブティーを飲んでいた)。

 もらった花束を花瓶に活ける。たぶんはじめて水切りなることを、ネットで検索しながら試してみる。

12/9(月)

 きのう寝たのがさすがに1時前だったので、お弁当はさぼってプラス30分くらい寝る。

きのうの時点ではわりと平気だったのだけど、会社のデスクに向かっていたら、じわじわ週末の疲労ゲージが溜まってきているのを感じた。

 晩ごはん、スパゲッティミートソース。春菊のサラダ。さすがにきのうは常備菜とかいろいろ仕込む気力体力がなかったので……でも、この春菊は帰りの道の駅で買ったもので、柔らかくて美味しかった。

 晩ごはんを食べてからは疲労にのしかかられてあんまり記憶がない。でも23時には意識を失っていた。

12/10(火)

 起き抜けにモーニング・ページ。あいかわらず心に浮かんだ良しなしごとを3ページも30分で書かれへんぞ、とは思う。

 モーニング・ページは何を書いてもいいことにはなっているので、悩みとか感謝とか以外に、きょうの予定を立てたり、アイディアのブレインストーミング的に使ってるひともいて、ググるとけっこう面白い。

 晩ごはん、夏生さん作で味噌煮込みうどん。

 煮込んだらいいだけのキットなのだけど、それに白ねぎ、うす揚げ、鶏肉、柚子などを加えたので、けっこう豪華になった。柚子がなにげにいい仕事をしていた。

 図書館で借りてきた『天然生活』をソファに置いていたら、夏生さんが読んでいた。

「これに載ってるひとたちって、みんなお金持ちだよね……?」と訊かれる。

 まあ、そうですよね。「シンプル家事」特集のはずなのだけど、「2週間に1回家事代行サービスにお願いしているので」とか食洗器、浴室乾燥機、ドラム式洗濯機の乾燥などに「おまかせ」とかがけっこう出てくるし。

 なんというかお金で外注して「シンプル」を体現するのだなあ、と思う。でも確かに、誰かにやってもらうとそろえる道具も少なくなるので、家のなかも自然と「シンプル」になりますよね……。

 雑誌には「洗い替え用のタオルは持たない」という「シンプル家事」もあったが、わが家は夏生さん用だけでバスタオル5枚くらいありますわ……浴室乾燥機もドラム式洗濯機もないので、シンプルの道は遠く険しい……。

12/11(水)

 きょうはテレワーク。これはモーニング・ページ日和だなあ、と思っていたのだけどふつーに惰眠をむさぼってしまった。

 その代わりに昼休みにモーニング・ページとはまた別に出ている課題をやる。

 毎週なにかしらの課題が数種類出ていて、自分の内面を再度深掘りさせるようなものなのだけど、そのうち「もしあと5回人生を送れるのなら何をしたいか」というものがあって、考えているだけでもけっこう楽しかった。

 一応、すべてもう一度人間なら、という枠組みで考えてみたところ、自分は名探偵、小説家、生物学者、プログラマー、占い師になりたいかもしれない。

 「生物学者」はこれまで一度も考えたことがなかった気がするので、自分のことながらなかなか興味深かった。

 あと、どれも基本的にひとりでこつこつやる系の職業、ということもなんだか納得感があった。 

 晩ごはん、ポトフ、にんじん玉ねぎのマリネ。マリネはいつもはツナを入れるのだけど、鯖のトマト煮の缶詰を入れてみた。けっこう美味しい。

 ポトフには骨付きの鶏もも肉、はやとうり、玉ねぎ、キャベツ、ペンネなどを入れました。鶏から出汁が出るので、味付けは塩こしょうで。

 晩ごはんのあと、リビングのテーブルの横の棚を片付ける。

 夏生さん、書類のファイルも、空調服のパーツもどんどん重ねて置いてゆくスタイルなので、わが家にはそういう「貝塚」の大きなものから小さなものまで、いくつかできてしまっていて……これはそのなかでまあまあ大きいもので、夏生さんの自主性にまかせていたら、ほこりと謎のべとつきを伴ってさらに大きくなってゆくので、申し訳ないが介入させてもらった。

 部屋でめっちゃ目立つ場所なので、片づけるとすっきりして気持ちが良くなるけど、汚いと思われていた&片づけができないと思われていたことにショックを受けて、夏生さんがしょんぼりしてしまうので、難しいところではある……まあでも、この場所については1年くらいこの状態だったのでゆるしてほしい……。

12/12(木)

 整形外科に行くつもりだったが、よく考えたら木曜の診療は午後休みだったということに朝になって気がつく。肩の痛みのやり場を見失う。

 晩ごはん、夏生さん作のカレーライス。イオンのカレールーを使ったらしいのだけど、中辛なのに少しも辛くない。しかもうっすら和風っぽい風味がする……具材はちなみにえのきとキャベツ、玉ねぎ、鶏もも肉という冷蔵庫にあったものでつくった感じなのだけど、なにか相互作用があったのだろうか。

 夏生さん、「なんか微妙だね……」としょんぼりしていたが、急に思い立って柚子の皮を刻んで散らすなどしていた。柚子の万能薬感。

 が、これが確かに美味しい……どういう作用か解らないが、カレールーの謎の和風っぽさにけっこう合っている。

 具材とかさらに合いそうなやつを選んで、もうちょっとこの柚子カレーを探求してみたい。

 合いそうな具は大根、ネギ、鶏肉よりは豚肉だろうか。あとたぶん、クミンとかにんにくとかは控えめにした方が良さそう。ちゃんとつくれたら、レシピ載せるかもです。

 それにしても、帰ってくる前はやりたいことがけっこうあったはずなのに身体が疲労困憊。ベッドの誘惑に抗ってなんとか風呂に入る。

12/13(金)

 きのうより断然さむい。なんだこれ。

 出かける前にかたつむりのためにもうしばらくつけておきたいから、タイマーをセッティングしておく。

 そういえば、わたしも起き抜けのタイミングでエアコンが起動するようにタイマーをつけているのだが、2時間前に起きている夏生さんは寒さのなか絶起している。すまんな、かたつむりですらエアコンのタイマーをつかっているというのに……。 

 整形外科チャレンジ、きょうは成功する。

 帰り道、買ってからずっと熟成させてしまっていた岡野大嗣『うれしい近況』を読む。

 買ってからずっと熟成というのは語弊があって、去年の夏くらいに半分くらいまで読んでいたのだけど、歌集にならんでいる歌とわたしのその頃の気持ちがあまり合わなくなってしまって、途中で置いたままになってしまっていた。

 『サイレンと犀』『たやすみなさい』『音楽』と、これまでずっと読んできた過程のなかで、いちばん好きな気がする。歌全体のトーンが整っていて、雑貨店などにゆるくかかっているBGMのようでもあるというか……それでいて、そのひとの過去に体験した事柄を取り出して、さらに魅力あるものとしてフィードバックしてくれるような歌集だと思う。

 なのになぜ、去年途中までしか読めなかったかというと、去年は「生活」することに必死でそれらのBGMをノイジーと感じてしまったからのように思う。

 まだ家具の揃いきっていない部屋、誰かと暮らして合う部分と合わない部分、洗濯の仕方や冷房の温度など、かすかな意見の相違への苛立ち。生活はただ生活として、剥き出しの状態だった。

音楽にふれているとき出てしまうあくびは〈生きる〉に差しこむ休符/岡野大嗣『うれしい近況』

加工したほうがきれいになる海の結局デフォルトに戻すまで/同

 以前読んだときには気がつかなかったけれど、この歌集はそこまで明るい部分ばかりではないというか、ところどころに「怯え」があることに気がつく。

タクシーに流れるコマーシャルを見る 忘れてしまうからこわくない/同

待っていたバスが視界に来たときの「逃げなくちゃ」って感情のこと/同

 この「怯え」は何処からくるものなのだろう。この楽しいことがいつまでも続くわけはない、ということへの予感だろうか。

 ただその「怯え」という影があることで、この歌集の明るさが立体的になっているようにも思う。

 寝る前にもらった花束の水切りをする。水と栄養剤もあたらしくした。まだ全然きれいだけれど、枯れていく過程を見るのがわたしは思いのほか怖い。

(つづく)

■歌人プロフィール

toron*(とろん) @toron0503

大阪府豊中市生まれ。うたの日育ち。塔短歌会、短歌ユニットたんたん拍子、Orion所属。第1歌集『イマジナシオン』(書肆侃侃房)。

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