【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第10回)8月3日〜8月9日

歌人toron*さんの短歌日記をおとどけします
短歌マガジン 2024.08.12
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[短歌日記]

ナイフのように爪先立ちで 第10回

toron* 日記 8月3日〜8月9日

 あなたのシャツ、カティーサークの船のごとくこの世をしばしひるがえりたり

8月3日(土)

 眼がさめた瞬間だるくて、9時前くらいまでベッドにいた。細々とした家事などやりたいことはあったのに、身体が絶妙に動かないというか。朝から出遅れた感がある。

こういう日は一日寝ていたい、と、いう気持ちだけはあるが、夏生さんも今日は仕事なので洗濯くらいはやらねばならない。洗濯機、みちみち回す。あとかたつむりの水槽の掃除。

 それ以外もなんとか動かねば、やらねば、という気持ちはあったものの、漠然と身体のだるいのは変わらず、結局寝たり起きたりしながら電子書籍の『ブギーポップシリーズ』を読んでいた。

 この日記に書いていないときも毎日100ページはブギーポップのなにかしらのシリーズを読んでいる。面白すぎる。キャラの魅せ方とかストーリーの風呂敷のひろげ方とか、いい部分はいくつもあるのだけれど、特筆すべきは友情の差し出し方だと思う。……いつかこのシリーズの考察サイトをつくりたい願望がある、というかもし仕事をやめたらまずその作業をする気がする。

 上遠野浩平、未読だけれど、西尾維新やジョジョが好きという方にはぜひおすすめしたい。

 しかしそれでも晩ごはんはつくった。鶏もも肉とちびピーマン(ほんとうにそういう名称)、揚げ茄子、トマトをオイスターソースで炒める。豆乳と豆腐のつめたいスープ。これも最近よくつくっているけれど、ようやく完成形の味にできた。それと常備菜の鶏皮と牛蒡の甘辛炒めなど。

 オリンピック、わたしはまったく見ていなかったのだけど夏生さんはちょいちょい見ている感じ。ただ今日はテレビをつけるとちょうど土曜プレミアムで『インサイド・ヘッド』がはじまったので、なんとなく見てしまった。

自分は実はディズニーとかピクサーの作品をほとんど見たことがなく……たぶん、これまで見たことがあるのは『美女と野獣』と『トイ・ストーリー2』だけだと思う。両親があまりディズニーを好きではなかったらしく、幼少期にアニメ以外にグッズなどからも意図的に遠ざけられていたので、かわいい、とか面白そうなどのインプリンティングがされないまま大人になってしまった。

 『インサイド・ヘッド』のストーリー詳細は割愛するけれど、主人公の主な感情のハンドルを握っているのは「喜び」で、そのお母さんは「悲しみ」、お父さんが「怒り」なのが興味深かった。それでいて「楽しそうな家族」にちゃんとなっているところも。

 ちなみに夏生さん、見るのは2回目らしいのだけどすすり泣きながら見ていた。

8月4日(日)

 起床して、昨日できなかった分の家事。掃除機をかけ、常備菜を仕込む。常備菜はゴーヤと玉ねぎとツナのマリネ、キャロットラペ、ブロッコリーの胡麻和え、きゅうりのじゃばら漬けなど。

 きょうは晩に、勇ちゃん、羊子さん、茉莉花さんと梅田のガーデンテラスでビールを飲む……と、いう素敵な用事があったのだけど、向かっている途中、近鉄奈良駅のホームで停電にあってしてしまう。

 ホームの電気はついているけれど、電車の中は灯りも空調も切れていて、30分くらい待っても動かず……結局、JR奈良駅まで歩いて大和路快速で辿り着いた。ピクミンブルームのアプリを立ち上げるのを失念していたくらいに無心に歩いた。

 けっこう早めに出たので、待ち合わせの時間には全然間に合ったけれど、紀伊国屋書店とかユニクロとか物色したかったので残念。しかしなかなかできない体験ではあった。

 阪急百貨店17Fの上空もやや湿度高め。生ビールが美味しい。その他、ピザ、ローストポーク、生ハムなどのタパスをセルフでとって食べる形式で、めちゃめちゃ満足度が高い……3人とはけっこうグループLINEでは会話しているものの、羊子さんと会うのは1年ぶりくらい。FM802リスナーだったので、ライブにほぼ毎月一緒に行っていた時期もあるのだけれど、コロナ以降、かなり会う頻度が少なくなってしまった。

 でも、コロナ以前にぼんやり計画していた温泉旅行を2月に決行しよう、という話になって、未来の楽しみが増えて良かった。

 帰り際、3人からお祝いにBRUNOのカタログギフトとシャンパンを頂く。

 もしかして今が人生のトップピークで、このあとこれを超える喜びに出会えないんじゃないだろうか、という怖さが最近少しある。

 今年、塔新人賞を頂いた一連に、

  人生にピークはもっとあってもいいクレッシェンドの生駒山脈

 という歌が入っているのだけれど、自分でつくっておいて、ほんとうに人生のピークはもっとあるのかな、と不安になってもいる。

8月5日(月)

 出社。きのうは早めに眠ったはずなのに、まあまあ疲れている……二日酔い未満の肝臓の疲労。って、先週のおれも似たようなことを書いてるな……。

 晩ごはん、豚肉と春雨、青梗菜の炒めもの。白ごはん、常備菜のきゅうりのじゃばら漬け、キャロットラペ。

 夏生さんも疲れがとれていないっぽくて「きょうはもうかたつむりを見ることしかできない……」とつぶやいて、まいちゃんを眺めてから寝ていた。

 先週土曜日に届いていた小俵鱚太さんの歌集『レテ/移動祝祭日』を半分くらいまで読む。

  言の葉に枯葉を混ぜて重くないことだけしゃべる冬のデニーズ

  わたしの裡にガラスの植物園があり夏の朝には奥までゆける

  暗渠に立てばこれは静脈だとおもう、海が心臓ならすぐそこだ

 いいな、と思ってあげた歌とはまた違うテイストの歌もけっこうある。主体は「ひとり」だと感じるのだけれど、それでいて多面的であるので「人間」を感じる……なんというか、真顔になって生きることを拒んでいる大人、という感じがあるというか。そのことに自分でもうすうす気がついて、周囲となんとなく合わせるものの、どこか浮いているような。

 歌集全体を通して話したくなることがいくつもあるので、たんたん拍子でもそれ以外でも、どこかでまとめて歌集評をすると思います。

8月6日(火)

 仕事中、急に熱々の白いごはんの上に松前漬をのせて食べたい欲望が湧きあがってきてしまった。なので仕事後、即座に会社前のスーパーに駆け込んで、松前漬を買って帰宅。

 晩ごはんは夏生さん作。鶏もも肉としめじの炒めもの。ポークチャップっぽい味つけで美味しい。それとキャベツとソーセージのお味噌汁。そして松前漬け、白ごはん。

 選んだり決めたり連絡したり金を支払ったりしないといけない事柄が多すぎて「誰か――!」という感じになっているが、ひとつずつやっていくしかない。

 目下、やらないといけないことだけ箇条書きにして、きょうはひとまず眠る。

8月7日(水)

 きょうはテレワーク。きのうのうちに本日分のタスクを前倒しで終えていたので、合間にここ数週間、選んだり決めたり連絡したりお金を払ったりしなければならなかったあれこれをいろいろ済ます。

 やらねばならない、という追いつめられた気持ちから、ようやくやや楽になる。こういう作業自体はきっと一生つづくのだろうけれど。

 晩ごはん、豚の冷しゃぶ。野菜はつるむらさき、ゴーヤ、トマト。酸辣湯風の卵スープ。

 プランターのトマトはもう苗がいよいよ駄目になってきたので、これに入れた分で終わりです。トマトには申し訳ないけれど、来年はもうちょっと上手く育てられる気がする。それと白ごはん、常備菜のキャロットラペなど。

 ごはんを食べながら、「今、周りのひとたちからもお祝いしてもらってとても嬉しいけど、これはこの記憶を折々思い出しながら、その後の日々を淡々と歯を食いしばってやっていくために、必要なんやろうね」と、夏生さんに云うと、めちゃめちゃびっくりした感じで「ええ……そんな、もっと楽しいことあるよ。これからも旅行行ったりしようよ……」と返される。

 うーーん、ちょっと違うのだよなあ、とは思ったけれど、なんか動揺させてしまったみたいで申し訳なかった。

 しかし、なんだろう。おそらく自分がしあわせのトップピークにいるはずのときにふと、これは普通の状態ではない、とわれに返るのは、とりたてて悲観的でもめずらしいことでもないような気がする。

  「ゆたゆたと血のあふれてる冥い海ね」くちづけのあと母胎のこと語れり/河野裕子

  心中の前に爪切ることなどを君に教えし小春日の部屋/前田康子

 探していくとさらにありそうだけれど、すぐに思いつく歌もある。

 おそらく、心のなかでバランスをとる部分が、そう思わせているのではないだろうか。

 一年のうち1日だけが群を抜いて良い日であると、残りの364日は「やり過ごす」ような日になってしまう。難しいだろうけれど、これからもほどほどの日がたくさんあればいい。

8月8日(木)

 きのうぐらいから感じていたけど、ひかりと風のなか、わずかに秋の気配がある。

 暑いのがあんなに厭わしかったはずなのに、もう夏は終わりなのか、とさびしくなる。……5月くらいからまあまあ暑かったし、「もう」ではなく、けっこう居座っていたはずなのだけど。「夏」というのはそのトップピークの一瞬だけの季節な気もする。

 きょうは仕事終わりに岬さん企画で第2回ピク民ウォークが取り行われた。

 会社からピクミンブルームを立ち上げて、花植えをしながらだいたい30分くらい歩いた場所にある居酒屋で喉を潤す、という先月からはじまった企画である。

 今回は光浦さんと美潮さんも参戦。「みんなで花植え」モードにしたので、ゲーム画面上にみんなのアバターがマップ上の丼池筋をあるいている光景はなかなかじわじわきた。

 お店は好きに選んでいい、と云われていたので、事前に裏なんばの「ひでぞう」を予約していたり……まず、一杯目のビールが美味しすぎる。その後、お造り、水茄子と鱧の天麩羅、ほっけ、鮫のなんこつ、などなど各自好きに頼む。ひでぞう、どれを頼んでもめっちゃ美味しい。コロナ前に来たきりになっていたので、また来れて良かった。

 みんな飲みながら思いのほかピクミンの話題になるのも面白い。星田さんは、ラスベガスのひととフレンドになって、たまにゲーム上でポストカードのやりとりをしているらしい。

 中盤くらいに美潮さんに「とろんさん、あのね。わたし課金はしてないの……コスチュームTシャツは買ってるけど」と笑顔で云われる。わたしが以前、岬さんに「美潮さん、コスチュームにめっちゃ課金してますよね……」と云ったのが伝わっていたようである。怖っ! すみません! いや、でも結局Tシャツは買ってるんですよね……?

「あんなの課金に入らないから! 課金おじさんは部長よ! もう千円以上は花びらとかに使ってるから……!」

 そうなんだ……と、思いつつそこで岬さんがそこで「ぼくはまだ無課金です」と急に親指を立てるなど。

 その他、光浦さんがお盆中に八甲田山に行くので山のピクミンをゲットしてくる、というエピソードも良かった。いい意味で、仕事の話がほぼ出なくて、めちゃめちゃ楽しかった。

 会社の繋がりで、会社以外の話で盛り上がることってやはり難しいものな……来月もあるらしく、だんだんレギュラー化するこの会が楽しみになってきている。

8月9日(金)

 出社。お盆前日だけれど、けっこうお盆明けの物件が立て込んでいるので、いろいろ対応。ゆっくりよりはちょい忙しいくらいの方が心地いい。

 やることは多いけど、ひとまず目途がついたので無事にお盆休みに突入できそう。あいだでちょいちょいテレワークはする予定だけれど、次の出社は20日になる。

 しかし、自由な時間がほぼ9日分あるとして、既にざっくり予定を立ててみているのだけれど、意外にもやることが多くて、何をしてもいいし、何をしようか迷う日は実質ない。なんだか淋しいけれど、予定を立てていると「なんだか解らないうちに休みが終わった」感にはあんまりならないので、大人はこの方がいいのかもしれない。

 夏生さんが20時近くなっても帰って来なかったので、LINEしようかと思っている最中に帰宅。渋滞に巻き込まれたらしい。もう今日から帰省するひともいるやろうしなあ……。

 晩ごはん、肉味噌をつくって、冷凍の揚げ茄子とちびピーマンを入れたやつを流水麺にかけたやつ。

 ごはんを食べたあと、日曜日に提出する予定の書類のまだ埋められていない欄を埋める。

書き方がいまいち解らない部分があって、放置していたのだけれど、さすがにそうもいっていられないので、ネット上から書き方をプリントアウトしてきて夏生さんに見せた。

「あんまりよく解らない。疲れてるから眼がすべる」と云うので、いやこれまで何ヶ月も時間あったし、それやったらなんで自分で書き方を調べてへんねん、と激昂しようか迷う。

 しかし、激昂しようか迷っている時点で、冷静なわけで「いや、さすがにもう出さなあかんから」「せやなあ」と、書き方を見ながらつつがなく埋める。

 激昂するのは、その方が相手をコントロールするために楽だから。自分の父親がわりとそういう性質があって、わたしもわりとそういう思考回路になることがある。自分の駄目な部分。とは思うものの、今のはなんかもっと云っても良かったな。難しい。

  幾重にも重なる闇を内包しキャベツ、ぼくらはつねに前夜だ/千種創一

 なんとなくもやっとしながらシャワーを浴びつつ、この短歌を思い出したりもした。

(つづく)

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toron*(とろん) @toron0503

大阪府豊中市生まれ。うたの日育ち。塔短歌会、短歌ユニットたんたん拍子、Orion所属。第1歌集『イマジナシオン』(書肆侃侃房)。

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