【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第50回)5月10日〜5月16日
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[短歌日記]
ナイフのように爪先立ちで 第50回
toron* 日記 5月10日〜5月16日
見たくても見えないものの多くありしかめつつ見たE席の富士
5/10(土)
朝からだるさが強い。雨ではないものの晴れというには微妙な天候。でもとりあえず明日のトーキョーシティは晴れそうで良かった。
寝たり起きたりしながら原稿を前倒しで作業。明日の準備。合間合間に『インベスターZ』という漫画を読む。
電子で50%オフセールをやっていたので、思わず買ってしまったのである。『ドラゴン桜』の作者なので、真面目なシーンがなぜかギャグに見えてじわじわくる場面がけっこうあるのだけど、わりと面白い。
例えば、不老不死をベンチャービジネスにしたくてホリエモン(フツーに出てくる。逮捕はされていない設定っぽい。あと前澤友作も出てくる)から資金提供を受けたい学生が出てくるのだけど、ホリエモンは確か健康寿命延伸事業なるものを実際している。ただホリエモンがそれをはじめたのは2020年頃で、『インベスターZ』の連載は2017年までである。
また北海道をもっとリゾートに特化させた計画、なども作中で出てくるのだが、現在ニセコで同じようなリゾート化が起こっている。ただ、ロシアとウクライナの問題で物資などが高騰し、頓挫したホテルも多いようなので……なんというか、戦争やトランプの関税などのアクロバティックなことはさすがに予見できなくても、今後経済がどこに行きつくか、ということはそこそこ予想可能、ということなのかもしれない。
晩ごはんは酢鶏。黒酢酢豚の素を使って、鶏むね肉でつくる。具はピーマンと玉ねぎ。大阪王将の素を使ったのだけど、なかなか美味しかった。
明日は文フリのため、掃除したり常備菜を仕込んだりしたい気持ちはあったのだけど、気持ちだけで終わってしまった。すまない。
5/11(日)
本日文フリ東京! これまでは前泊していたが、今回は月末に塔の全国大会にも参加するので、ビュッと行ってビュッと帰ってくる計画である。
京都駅で出汁巻めんたい弁当を買い、事前にDLしておいた『グランメゾン東京』を新幹線で優雅に見るつもりだったが、途中で充電コードの不具合に気がつくなど。
まあしゃあない……淡々と『インベスターZ』を読む作戦に切り替えた(それなりに楽しめた)。
品川駅に到着して、ゆりかもめを経由し、はじめての東京ビッグサイトへ。エノモと開場1時間前に合流して設営する。
ビッグサイト、はじめて来たのだけどめちゃめちゃ広いな……東京流通センターよりさらに広いし、コンビニが複数入っているのも、座る場所が無数にあるのも助かる。人は多いけど人口密度は低い、という感じでこれまでより息がしやすかった。
それにより脳内にきちんと酸素が行き渡るようになったからか、これまででいちばん、自分が今何を喋っているのか自覚しながら喋ることができた。
何いうてんねん、そんなん普通やろって感じる方が多数だろうが、自分はだいたいいつもテンパっていて、せっかく来てくれたひとに場当たり的に喋っている感が常にあったのである。
会話なのでアドリブなのはそれはそうなのだろうけれど、眼の前のひとに向き合って喋っている感覚が伴ってくれないという感じだったのだ。
それがようやく今回落ち着いて話すことができた。たんたん拍子として、文フリに出て6年かかったが、ひとまずほっとした。ありがとう東京ビッグサイト……。
ほっとしたといえば、今回持ってきたフリペをすべて配り終えたことも良かった。これまでは刷ってこなかったり、なんだかんだ配るのを失念したりしていたので……たんたん拍子全体の販売数としてはもう少し伸ばしたかったところではあるけれど、このあたりはやや進歩ではあった。
そうそう、購入したものもまた感想と一緒に書いていこう思います。とりあえず一番買いたかった高殿円のエッセイ、『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』を無事にゲットできた。
ブースのあるフロアが分かれているので、広いぶんお買いものと店番の往復がたいへんではあった……夕方の時点で1万2千歩あるいていたようである。
撤収後、たんたん拍子のメンバーに永井駿さん、武田ひかさんを加えて居酒屋で打ち上げ。
しかし、ビール1杯、日本酒1合くらい頂きましたが、1時間弱って呼吸してたらあっという間ですね。名残惜しくも、新幹線の予約席のため19時すぎに離脱した。
缶チューハイと夏生さんの好物・ごまたまごを買って新幹線にすべりこむ。
とはいえ、これまででいちばん疲労感が軽い(疲れていない訳ではないが)。帰宅してどん兵衛を食べていると関西にいる実感がより湧いてきた。
夏生さんに急かされるままちゃんと化粧を落として風呂に入り歯を磨いてからねむる。
5/12(月)
きょうはテレワーク。疲労感が軽いといっても疲労していない訳ではないので、始業10分前まで横たわるし、昼休みもがっつり横になった。
これまでの文フリだと会場発送した荷物は翌日午前中には届いていたが、どうも今回は12日発送の13日着になるらしい。午後に届いた公式からのメールによるものだが、会場の荷物がどうしても多くなるからかもしれない。
晩ごはんはプチトマト、舞茸、鶏もも肉をガーリックバターとぽん酢で炒める。わりと簡単だが複雑な味になって好きなのだけど、もうちょいバターは少なくても良かったかもしれない。
一緒に常備菜でおからサラダ(おからに塩もみしたにんじんときゅうりを混ぜ込み、ごまだれとかんたん酢で和える)、にんじんと玉ねぎのマリネ、もやしナムルなどを仕込む。
『インベスターZ』の持ち家の話(家は買ったらローンで結局倍くらいの金を払うことになる)にふるえあがる。近年、結婚した友人たちがことごとく家を買っていて、みんなすごい覚悟だな、と改めて思う。
自分は設備会社に勤めていて、空調や水まわりの機器の寿命の短さが実感としてあるし、祖母の不用品だらけになった一軒家(さいごまで伯父が東京から帰ってきて住むと云っていたが、絶対帰ってこないと誰もが思っていた)を目の当たりにしたので、家を買うことに憧れがほとんどない。夏生さんともそのあたりの意見はわりと一致している。
ただ、わたしと違って夏生さんは「もし家を買ったら」というシュミレーションはするらしいが、だいたい「いや、無理やな……」になるらしい。たぶんそれは猫とか犬を飼ったり、ピアノを置いたりしたい願望が夏生さんにあるから、なのかもしれない。
5/13(火)
なんとか出社。仕事は特に問題なかったが、こないだ新たに買った株価がひたすらに落ち込んでいて、気分はまあまあ下降した。日経平均株価は爆上がりしているというのに……そして株で一喜一憂するのは良くないと『インベスターZ』でも云っていたというのに……。
文フリ荷物の着払いを受け取る。といっても受け取ったのは夏生さんだが。
19時着だが18時59分に帰りついたときはもう届いていた(「ちょっと早いんですが……」と云いつつ宅配業者の方が届けに来たらしい)。
一応、間に合わなかった場合のために料金を置いていったのだけど、盛大に料金の計算を間違えて、夏生さんに不足分を払ってもらうなど……すみませんでした。確かにちょっと今回は安いなあと思っていたのだよな……。
それにしても、年々着払いの料金が高くなっているな……2箱送るとほぼ4000円なのか。
そして塔が届いていて、半年に一度の会費納入の用紙が挟まっていた。そういえば今月、現代歌人集会の会費の用紙も届いたのだよな……いろいろ入ってくるお金があっても、結局同じくらいそれなりに出ていくお金がある……。
塔の会費は年に2回あり、ちょうどそのくらいの時期と回数、お金の出入りについて思いを馳せているような気がする。
夏生さんも「車の保険、ちょうど満期だから見直そうかな……」と今月の塔を読みながら云っていた。車を買ったところで言われるがままに入った保険なので、比較したらだいぶ高い仕様になっていたらしい。
お金というものはお金が好きなので、たくさんお金があるところに自然と寄り集まるようになっているのだなあ、と思う。
晩ごはんはチャプチェ、冷ややっこ。食べた後、BOOTHの商品ページを更新する。
5/14(水)
一夜明けて、さっそくBOOTHに新刊の注文が入っていた。うれしい。帰宅したらまとめて発送せねば。
しかしもう水曜日なのか……体感的にまだ月曜日くらいなんだが。
出勤途中、近鉄奈良駅に向かうまでの道で信号待ちをする鹿と、花壇の花をむさぼっている鹿の集団に会う。すべて雄だったのだけど、なにか会合があって朝帰りだろうか……特に花壇の鹿の集団の方は、角のようやく生えてきた雄2匹と大人の雄の鹿3匹という内訳で、子どもに悪い遊びを教えている雰囲気があった。
薔薇の芽を摘むほどの悪事しか知らぬ君を利口にしてあげようか/黒瀬珂瀾
しかしこんな光景が繰り広げられているが、道行くひとの誰も立ち止まらず、スマホを向けたりもしないのは、やはり奈良だな、と思う。ちなみに県庁前はかんぜんに奈良公園の中にあるので、入り口にはめちゃめちゃ鹿がたむろしている。
万城目学『鹿男あをによし』で「奈良県民はマイ鹿で通学している」という冗談を主人公が信じかけるシーンがあるが、入口にあれだけ鹿がたむろっていると、純真なひとは信じそうになるのもやむを得ないかもしれない。
昼前に夏生さんから、体調が悪くて早退したというLINE。まじかー。先日のめまいからのタクシーで病院直行の件があるので焦ったが、今回はそこまでではないらしい。
カップうどん、ゼリーなどを買ってから帰宅。仕事から帰ったままの服装で横たわっていたので、着替えを促したり、なんやかんや症状を訊くもののあんまりちゃんと会話が成り立たず。でも、とりあえず、原因は不明だが病院で点滴をしてもらったらかなりましになったとのことだった。
晩ごはん、夏生さんにはどん兵衛。わたしは夏生さんが食べなかったお弁当(冷蔵庫にしまってあった)とインスタントのお味噌汁。
夏生さんはその後、風呂に入って寝てしまう。
明日、夏生さんは出社できるのか解らないけれど、弁当の準備や洗濯などもろもろの家事をひとりでこなしてわたしも疲労困憊して、溶けるようにねむる。
5/15(木)
夏生さんはきょうも念のため休むとのこと。
なんだかんだ月イチで体調不良で欠勤や早退をしているので、かなり真面目に心配しているのだが、わたしの伝え方が良くなかったこともあり、晩ごはんの際にやや揉める。
揉めたものの、最終的にお互いが謝って終了し、大事にはならなかったがかえって不完全燃焼な感じになる。
誰かと一緒に暮らすということは、定期的にこういう現象が起こらざるを得ないと頭では理解できているが、それを淡々と受け入れられる境地にはまだ到っていない。
いや、わたしが悪かったしな、という感情と、いやほんとうに自分が悪かったのか、眼の前でずっと理由も云わずに泣き続けるのも暴力じゃないのか、という感情が交互に押し寄せてくる。
湯舟につかりながら、「うわーー、しにてーー」と何度か口に出して精神の安定をはかったりした。
眠気はなかなかやってこなかったが、それでも逃げるようにしてねむる。
5/16(金)
夏生さん本日は出社朝、なるべく自然に接しようとして結局いつもより不自然になるというあるある。
午前中、非常にメンタルの状態が良くなかったが、後場の株取引でいい感じの値段で売却できてからいっきに気力が回復した。株やってて良かったな。ありがとう日経平均。
夏生さんに、晩ごはんに食べれそうなものをLINEで訊くと、もう普通に食べれそうなのでパスタとかがいいとの返事だった。
個人的にミートソースが食べたかったので、その材料とサラダ用の野菜などを買ってから帰宅。
夏生さんの方も檸檬堂やプリンなどを買ってきてくれて、ようやく「自然」にもどる。
誰かと一緒に暮らすということは、定期的にこういう現象が起こらざるを得ないと頭では理解できているが、それを淡々と受け入れられる境地にはまだ到っていない。
けれどもこうやって、何度もくりかえしていっていつかそこにたどり着くのだろうな、とはだんだん思えるようになってきた気がする。
(つづく)
■歌人プロフィール
toron*(とろん) @toron0503
大阪府豊中市生まれ。うたの日育ち。塔短歌会、短歌ユニットたんたん拍子、Orion所属。第1歌集『イマジナシオン』(書肆侃侃房)。
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