【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第14回)8月31日〜9月6日

歌人toron*さんの短歌日記をおとどけします
短歌マガジン 2024.09.10
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ナイフのように爪先立ちで 第14回

toron* 日記 8月31日〜9月6日

  虹の十倍の色数ちりばめたクリアファイルのつやめきを買う

8/31(土)

 8時ごろぼんやり起きる。奈良、晴れてはいないものの穏やか。ほんまに昼間から荒れ模様の天気になったり線上降水帯が発生したりするんやろうか……。

 などと、不安になってはいるもののきょうは夏生さんの誕生日なので、事前に見繕っていたプレゼントを渡す。ノートパソコン用の鞄。特にブランド物でもなく、質感もわからないままにAmazonで買ったものだったのだが、夏生さんにすすり泣かれる。

 これまで夏生さん用のノートパソコンは、文フリなどで無料配布されているペラペラのトートバッグに突っ込まれて持ち運ばれていたので、これでようやく衝撃や水もカバーすることができる。

 しかしサンサン、昼間になっても相変わらず移動スピードがハイパー遅いし、奈良は晴れ間すら見えてきた。これ、行った方がいいやつだったかな……という思いがふつふつ湧き上がってきたりしそうになりながら、明日の全体歌会の選歌をする。詠草集には270人分の詠草が載っていて、ここには選者の歌も含められている。その中から各選者賞と互選賞が明日決定するのである。

 晩ごはん、ケーキの代わりにキッシュを焼いた。小松菜とベーコンのキッシュ。それと先日、永井駿さんからお祝いに送ってもらったとても良いハムを焼く。鎌倉ビールのハーブセゾンも開ける。

 ハム、しっかりと食べ応えがあるのに柔らかみもあって、お肉のほぐれていくような感じでとても美味しかった。

 夏生さんに新しい年の目標は、と訊くと「生き延びること」と云われる。なんか去年もそんなこと云っていたような……?

 21時くらいに明日の出発時間を確認すると、思いのほか早く家を出なければいけないことに気がつき、焦って寝る。

9/1(日)

 そして塔の全国大会、京都へ。7時半に家を出る。関西近郊の民ですら、まあまあ早い時間に家を出ねばならない。奈良だから、とも思うが二年前に大阪から移動したときもこんな時間だった気がするので、2日目の全国大会の開始時間は、前日会場周辺のホテルに泊まっていることを想定されているような気がしないでもない。

 遅れることに恐怖心があったので、けっこう乗り換えも時間も確認していきたはずだったのに、なぜか会場最寄り駅を盛大に乗り過ごす。が、なんとか岩倉行きのバスを捕まえてこれでリカバリーできると思いきや、まさかの逆方向で、ふた駅乗ったのち降りる。おれのバス代230円……と、心がにくしみでいっぱいになりそうだったが(自分の所為やろ……)、開始まであと20分というところまで差し迫っていたので、真顔でタクシーをつかまえ、10分前になんとかたどり着いた。

 はじまる前に、せわしく塔のグッズ(70周年デザインのクリアファイルやマステなど)を買う。まぶたが痙攣しそうなほど焦っていたが、受付で何人かに話しかけてもらえたりして、ようやく緊張が落ち着いてきた。

 午前中は全体歌会。まだ新幹線が動いていないこともあり、参加者は当初予定の270人の半分くらいだった。でも、関東からサンダーバード経由や飛行機で来ている方もそれなりにいた。

 午後は塔会員以外も参加できる講演会。一発目が町田康さんだったのだが、めちゃめちゃ面白かった……10分に一回くらい「ま、町田康が喋っている……!」という衝撃があった。

 町田さんは曲から歌詞をつくるタイプで、「不自由な方が自在に言葉が出る」ということを仰っていて、これは定型にも云えることなのだろうな、と思った。

 ピーター・マクミランさんと吉川宏志さんの対談も良かった。「万葉集は英語で訳したものを読んだ方が意味内容的なことはよく解る」や河野裕子さんの「逆立ちしておまへがおれを眺めてた たつた一度きりのあの夏のこと」を引いて、英語では「おまへ」は「You」としか訳せない、と仰っていたことが印象に残った。

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