【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第25回)11月16日〜11月22日
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[短歌日記]
ナイフのように爪先立ちで 第25回
toron* 日記 11月16日〜11月22日
寓話のなかの農夫のように痩せながら月は復路の冬を走りぬ
11/16(土)
きょうは会社の健康診断。土曜日なのに朝イチで大阪まで行かねばならん。しかも、バリウムを飲んでから、5時間後に女性病健診が同じ場所であるので、バリウムを飲んだ後の状態で時間をやりすごすのに、毎年非常に難儀してしまう。
午前の部が終わったあと、蔦屋書店に『現代短歌』と書肆侃侃房から出ている『塚本邦雄歌集』を買いに行ったものの、どちらもなく……梅田ではここがいちばん詩歌の品揃えが良い書店だったので、ショックが隠し切れない。
腹痛に耐えながらも、紀伊國屋書店までハシゴして、ひとまず『塚本邦雄歌集』だけはゲットできた。
午後の部が終わってから、地下の喫茶チェーン店で少し読む。
自分は短歌研究社から出ている文庫本の塚本邦雄全集のセットも持っているのだけれど、塚本邦雄は生涯に刊行した歌集の冊数だけでなく、1冊に収録されている歌数もなかなか多いので、こういう選集で読む方が、作者の濃いエッセンスを感じられる。
この『塚本邦雄歌集』の章は編年体だけれど、第1歌集の『水葬物語』からはじまるのではなく『透明文法』からはじまるのがとても良い。
読み進めてしばらくして、隣の席に男女のペアが座る。
おそらくネットワークビジネス関連の……梅田のこういう喫茶チェーン店に入るとたいがいどこかでネットワークビジネスの話をしているのは、最早あるあるなのだけれど、どうもどちらかが勧誘、という訳ではなくお互いネットワークビジネスをしているけれど、違うネットワークビジネスに属していて、互いのニーズに合致する人を紹介しあっているようであった。
また話から、女性の方のネットワークビジネスは、今のネットワークビジネスをやりながら別のネットワークビジネスをすることや、婚活アプリなどを使って人脈をひろげる方法は固く禁止されているらしい。
「でもそんなの取り締まれないし、絶対やってるひといるでしょ?」
と男性の方がいうと、
「やっている人はいそうですが、それでも書面では禁止されていますし、まず商品の方に魅力を感じてもらわないといけないので……」
と女性の方は返していて、ネットワークビジネスだとしてもネットワークビジネスなりの倫理があるのだなあ、となかなか面白かった……。
それ以外にも、宗教関連のセミナーに逆に誘われてしまったパターンとか、会合にはだいたいオフィスビルのタリーズの朝活で行われている、とか興味深い話が多くてあまり歌集の内容が入ってこず、結局30分くらいで店をあとにした。……なんというか、同業者間でシェアを取り合っているのはどこも同じなのだなあ、と思ったりした。
帰り道になんばのユニクロで、セール品のワンピースとセーターを買う。
晩ごはん、モランボンのつゆを使ってレモン麹鍋。豚しゃぶ用の薄切り肉、豆苗、パプリカ、レタスなどすぐに火の通る野菜ばかり入れたので、調理もめっちゃ楽で美味しかった。
美味しかったが、バリウムによる腹痛からいまいち抜けきれず、横になって『塚本邦雄歌集』の『装飾楽句』まで読み進む。
11/17(日)
午前中に掃除。午後は美容院に行く。
10センチくらい切って、ひさしぶりに耳が出るくらい短くなる。過去最高にショートかもしれない。鏡をみると、悪くないけどかなり違和感がある。でも、やっぱり下の妹と自分は顔が似ているんだな、と思った。
かなりすっきりして、気分は上向きだけれども、髪の毛を切ってしばらくは「切りましたね」とか「短くなりましたね」といわれるのが、あまり得意ではないので、もうしばらくは身構えた心持ちになりそうである。
来週分の常備菜としてコールスロー、味玉、ブロッコリーのペペロンチーノ風炒めなども仕込む。
晩ごはんは豚平焼き、青梗菜と揚げ茄子とちくわのお味噌汁。大根とかにかまのサラダ。常備菜の高野豆腐残り。
食べながら先週分の『ゴールデンカムイ』を見る。
剥製職人・江渡貝くんの回だったのだけれど、めちゃめちゃ良かった。
鶴見中尉、どんなサイコパス囚人(またはゲスト、または部下)たちにも最後まで付き合ってあげるの、優しいな……褒めて人を伸ばすタイプ。
自分も黒の組織に所属しているので、利用されていると知ってしまってもこんなに優しく接してもらったら最後までお供してしまうと思う……。
そういえば、江渡貝くんは奈良出身だが、剥製作りに適した土地の北海道に移住してきた、という設定で、夏生さんの通勤経路の宇陀の山中に剥製店があるらしい。あのあたりが出身地のモデルにされているのかもしれない。
11/18(月)
ハイパー寒い。冬がいっきに来た。マフラーを解禁した。髪の毛が短くなったので、特に首すじが冷える。
予想していた通りに、会うひとほぼすべてに「短くなりましたね」といわれて、半笑いになって対応する。でも、わかりやすく気分が良くなって、新しくブラウンのリップを買ってしまう。
そういえば、先週の古本市の売上が確定する。
やはり、参加費より100円くらいのプラスって感じだった。他の参加者の点数や売上などを見ると、500円台の本をもっと出していて、かつ売れていたみたいだったので、自分ももっと思い切って出しても良かったな、と思った。けっこうおそるおそる値付けをして、300円と100円の本しか出さなかったのである。損はしなかったけど、次回はもっと工夫しないとな……。
晩ごはん、ペンネのミートソース。揚げ茄子、ブロッコリー、豚ひき肉を具材にして「ルーミック」というミートソースの素を使ってつくった。
晩ごはんの後、ニンテンドースイッチの基盤の部分が壊れてしまったらしく、夏生さんが号泣していた。
11/19(火)
きょうは仕事後、小窓さんと梅田に飲みに行く。「ALBERTA」という魚メインのイタリアンのお店で、けっこう前から気になっていたお店だった。
ほんとうは華子さんも来る予定だったのだけど、風邪が悪化してしまったということで残念。小窓さんとは9月にフィギュアスケートの近畿選手権を見に行って以来だ。あのとき3位に入賞していた織田信成は西日本選手権でも優勝して、全日本に出場が決定したのであのタイミングで見れて良かったな、と思う。
わたしは青森に、小窓さんは鳥取に、お互い会えない間に旅行に行っていたのでその話で盛り上がる。小窓さんは水木しげる作品のファンで、大学時代から『悪魔くん』『墓場鬼太郎』の単行本などをそろえていたりするのだけれど、今回鳥取の水木しげるロードを再訪したらしい。
そういえば塚本邦雄に、
血液銀行前の暗渠に騒然と家竝の下水かがやき落つる/塚本邦雄
という短歌があるけれど、自分は「血液銀行」という単語を『墓場鬼太郎』で知った気がする。郷田マモラの漫画にもたまに出てくるのでそっちの可能性もあるが。
話はそれたけれど、その水木しげるロード、以前に行ったときよりもブロンズ像が20体くらい増えていたらしい。ブロンズ像って増えたりするのか……。
自分も青森の行ったところなどを話していてあらためて気がついたのだけど、やはり1週間くらい旅行すると、メンタルの安定が全然ちがってくる。青森以前と以後で時間の過ごし方、使い方が変わったというか……それでも自分は効率廚というか、マルチタスクだいすきな部分があるので、いつか戻ってしまうのかもしれないけれど、できるだけ記憶のなかの青森を意識して、もっと落ち着いて過ごしていきたい。
スパークリングワインとカルパッチョ、タパス2種類くらいとパイ生地のピザを頼んでけっこう満足した。
火曜日だったからか、お店もまあまあ空いていたけれど、これから何処に行っても混むシーズンになるんだろうな……。
帰る途中に、泉の広場の「英國屋」の前を通った。
ここは泉の広場の泉がなくなるくらいのタイミングできれいに改装されたのだけど、同時にコーヒーの値段もかなりシビアな値上がりをしたので、客層もけっこう変わってしまった。
改装前にはおそらく一日中いると思われる、スポーツ新聞を見ながら居眠りしているひとや、イヤホンで競馬中継を聞いているらしきひとがいたけれど、そういうひとたちは今どこに行ってしまったのだろう。
11/20(水)
きょうも寒い。ついにエアコン解禁をした。今年けっこう暖かかったのでもうちょっと先延ばしにできるかも思っていたのだけれど……それに飼っているかたつむりもハイパースリープモードになってしまうのも良くないので、やむを得まい……。
仕事後、整形外科に行く。先週、先々週とも違う先生にあたる。これまで全員違う施術なのだけど、不思議と凝りがとれている。まあ、電気治療をしてもらった時点でかなり楽になっているので、自分の凝りがそこまで重症ではないということなのだろうけど。
帰宅したら、20時過ぎだったのだけど、夏生さんも遅くなってしまったらしく買ってきてくれたパンガシウスのフライ2種類とサラダで晩ごはん。
しかし、あまり暖まらないメニューだったからか、食べている間中ずっと寒かった。即席のお味噌汁を追加しても寒い。
かたつむりも寒いかもしれない、と思って水槽に低温カイロを置いてみたりしたけれど、あまり効果はないっぽかった。
11/21(木)
きょうは一転して寒さがおだやか。きょうの晩ごはんはわたしが担当なので、夏生さんが買ってきてくれて冷凍庫にねむったままになっている、トップバリュのロールキャベツを使うか、とアレンジを検索していたら、公式のクチコミ22件ほぼすべてが星1の評価でびっくりする。
いわく、「いくら煮込んでもキャベツが柔らかくならない」「キャベツが和紙」「肉がほぼ入っていない」「肉がほぼ入っていないのに不味い」「肉がほぼラード」「使いやすいのに不味くて残念」と、ハイパー気遅れするレビューばかりでたじろぐ。さすがに調理する前から捨てたくないんだが……。
とりあえず別鍋でしっかり煮込んでみるか……と、帰宅してから商品を確認すると、トップバリュではなく別メーカーのロールキャベツであった。
ほとんどビックでしか買いものしないからそう思い込んでしまっていたのか……ロールキャベツはホワイトシチューのルーと一緒に煮込んだらすぐに柔らかくなってふつうに美味しかった。
ネットで注文していた『現代短歌』、少し読む。受賞作の上川さんの三十首選、めちゃめちゃかっこ良くて、読みながらのたうち回る。
11/22(金)
仕事中、同僚の立羽さんから「のみたいです」という社内メールがまわってくる。
立羽さん、産休からの育休で、それらが明けた今も週の半分はテレワークになっているので、さいきんは部内の飲み会にもあまり来ていなかったのだけれど、奥さんが一時子連れで帰省するため、来週金曜はひさびさのフリーダムだからということらしい。わたし、岬さん、星田さん、大野さんへの一斉送信で、タコスか火鍋のお店がいいとのこと。
ニッチなメニューの二択だな……と思ったけど、楽しみ。とりあえずタコスに1票入れておいた。
晩ごはん、さいきんはまっている豚汁鍋。既製の豚汁鍋のつゆなのだけどきょうは里芋、にんにく、豚ロース、もやし、にら、というラインナップにしてみた。
具材はけっこう暖まるやつらを揃えているはずなのだけれど、鍋を前にしていても暖房を入れないとやはりうっすら寒い。認めたくないが冬なのだなあ。
明日は塔の事務所で『「銀河を産んだように」などⅠⅡⅢ歌集』の読書会なので、付箋を貼ったり、発言できそうなことをスマホのメモに落とし込んだりした。
(つづく)
toron*さんクラス「短歌投稿のコツ」シーズン2、はじまります
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■歌人プロフィール
toron*(とろん) @toron0503
大阪府豊中市生まれ。うたの日育ち。塔短歌会、短歌ユニットたんたん拍子、Orion所属。第1歌集『イマジナシオン』(書肆侃侃房)。
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