【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第9回)7月27日〜8月2日

歌人toron*さんの短歌日記をおとどけします
短歌マガジン 2024.08.06
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[短歌日記]

ナイフのように爪先立ちで 第9回

toron* 日記 7月27日〜8月2日

 すっぱりとひらく睡蓮おしなべて上書きされてゆく想い出に

7月27日(土)

 7時前に起きて緑地公園に歩きに行く。緑地公園内に「いなり山」という、ほんまに山?みたいなエリアがあるのだけれど、そこがネット情報によるとピクミンブルームで山判定されているエリアらしい。山ピクミンは珍しい上に、地上から10分くらいで登頂できるので、奈良で若草山を目指すより気軽極まりない。

 緑地公園、来るたびに変化がめざましい。民家集落のエリアの近くにローソンができていたり、たこ公園(地元のスラング)の近くにスタバができていたりしていた。

 あとこれはずいぶん前からだったのかもしれないけれど、小学生の頃、友達とブラックバスなどを釣っていた池が、蓮で一面おおわれていてびっくりした。しかもけっこうなフォトスポットになっているらしくて、早朝なのに一眼レフを構えたひとをたくさん見かけた。

自分が遊んでいた頃の公園と変わっている部分の方が確実に多いのだけど、あまり郷愁とかはなくて、むかしより子どもか親子連れ以外のひとたちが増えて過ごしやすくなっていて、素直にいいなと思う。

 あと、池の前のベンチで将棋をしているおじいさんふたり(どちらも自転車で来たらしくベンチの前にとめてあった)がいたのもなんか良かった。熱中症にだけ気をつけてほしい。ちなみに山ピクミンは無事にゲットできました。

 実家には昼過ぎまでいた。お盆中に茅ケ崎へ行くので、飼っているかたつむりを預かってもらう打ち合わせなどをする。

 実家でもけっこう長い間かたつむりを飼っていたので、急なかたつむりに対して期待が高まっている様子……かたつむりが器に顔を突っ込んで水を飲む話をしたら、やはり驚いていた。自分もはじめて見たとき謎の感動があったものな……。

 奈良に着くともう18時前だったけど、夏生さんも仕事なので、さすがにきょうはKOHYOでおかずなどを買って帰る。ナムル盛り合わせ、イカ焼き、春巻き。そういえばこの日記をつけてからはじめておかずを買って夕飯を済ませた気がする。別に手作りにこだわっている訳ではなくて、単に吝嗇なんですよね。

 夏生さん、先週くらいから「旅行に行きたい……」と云っていたのだけど、わたしの方は「えー、もうすぐ茅ケ崎行くやん」と軽く流していたら、旅行プランをめっちゃ練っている痕跡をちらしの裏に見つけてしまった。

 「おれの考えたさいきょうの旅行」みたいな感じの6泊7日のプランで、青森で4泊、北海道で2泊するプランだった。え、本気なん?

7月28日(日)

 7時起床。きょうは紺野なつさんが娘ちゃんを連れてわが家に遊びに来る日なのだけど、めちゃめちゃ楽しみな反面、緊張する……娘ちゃんには1歳くらいのときに会ったのが最後なので、写真とかは見せてもらっていても、なかなか実像が更新しきれないというか。

 きょうはしかも自分だけでなく夏生さんも一緒なので、わたしが掃除係、夏生さんが餃子(のタネ)係になって真顔で準備をする。

 12時前に紺野さんと娘ちゃんが来る。ビールとお惣菜もけっこう買ってきてくれたので、めちゃめちゃ助かる。娘ちゃん、もう小学1年生でしかもけっこう喋ってくれるし、全然緊張してないことに感動してしまった。

 こんな小学生じゃなかったよなあ、と大人3人で詠嘆し合うなど。そういえば『君の膵臓をたべたい』で、もしひとつだけ質問できるなら、という会話で「どんな子どもだった?」と訊くくだりがあるのだけど、大人になって出会ったひとたちの子どもの頃の話を聞くのはけっこう楽しい。わたしと紺野さんは大人になってからかなり社交的であかるくなった方で、夏生さんはその逆らしい。

 餃子、包むのは娘ちゃんも含めてみんなでやったけど、タネも焼くのも夏生さんがやってくれたので、ほとんど振る舞われているといっても過言ではない気がする。タネはスタンダードに豚肉、ニラ、キャベツのやつと、バジル入りの2種類用意した。バジル入り、すごく美味しい。

 紺野さんと夏生さん、会うのははじめてだったけど、けっこう音楽と本の好みが似ていて(ふたりともクリープハイプは初期が好きで、村上春樹はひととおり読んでいる)話も弾んでいて良かった。途中、紺野さんのママ友がわたしの歌集をめちゃめちゃ褒めてくれたエピソードを話してくれて、わたしではなく、夏生さんが「良かったね……」と泣いてしまう場面があったりもした。

 紺野さんをJR奈良駅まで送って行くと、18時前。いつもより長く話していたはずなのにあっという間だな……といっても、ふだんより飲んでいるので、帰宅して1時間ほど意識を失ってしまう。

 晩ごはん、昼をたくさん食べたのでかるーく。流水麺。具はトマトときゅうりとハム。

 夏生さん、食後さらに「おれの考えたさいきょうの旅行プラン」の続きを練り直している。しかし実は父上から先日けっこうなお祝いをもらってしまったので、休みさえとれたらこの旅行は実現可能なのである。運が引き寄せられている感じがする。

7月29日(月)

 きのうは早めに眠ったはずなのに、まあまあ疲れている……二日酔いを回避しても、だるさはそれなりに残っているというか。これが肝機能の衰えですね。

 それでも5時なんとかに起きて、きのうねむくて断念した常備菜の仕込み。味玉、えのきの梅和え、小松菜煮びたし。お弁当もつくったぞ。

 今になってようやく、父上に書いてもらった市役所に提出する書類の現住所欄が間違っていることに気がつく。

前の住所を書いてしまった、とか号数が抜けていた、とかそんなかわいい感じではなくて、かんぜんに架空の住所。いったいどうした。本籍は確認したけど、さすがに現住所を間違えると思っていなかったので、わたしの方も確認していなかった。

 とりあえず、本人以外が訂正するのは駄目らしいので、返送して再度送り直してもらうしかない。人生――。

 その旨を父上にLINEしてみたが、既読にはなっているものの返信がない。母上にLINEしたところ「お父さんは相当ショックを受けているようです」と返ってくる。

 晩ごはん、きのうの餃子のタネの残り(バジル入りの方)をミートボールにして、冷凍の揚げ茄子とブロッコリーも入れてケチャップ味でまとめる。キャベツと薄揚げの味噌汁、冷奴にえのきの梅和えをかけたやつ。

 疲れがやばいので、きょうはひさびさに強炭酸の入浴剤を入れて湯舟につかる。その後ストレッチしてクエン酸を飲んでベッドに入る。『きのう何食べた?』のドラマでシロさんが老眼鏡を選ぶシーンで「歳をとると普通のものでまかなえなくなるんだよ」というセリフがだんだん身に染みてくる。

7月30日(火)

 皆様

 猛暑が続いておりますが、如何お過ごしでしょうか。
 そんな暑さにも負けぬよう、ウォークイベント2回目を行いたいと思います。

 8月には、アサガオが開花します。
 ※コミュニティ・ディと巨大なキノコの出現が同時に8/10(土)からスタートします。

 ■日時 8月8日(木)18:30 (花植えは17:50スタート) 予定
 ■お店の場所 裏なんば

 詳しい情報が決まりましたら、お知らせします。皆様、奮ってご参加下さい!

 という岬さんからの社内メールが、部内のピクミンブルームユーザーに一斉に届く火曜日。

 文面のこなれている感……!と思いつつ、参加表明をする。

 結果、部内の8名に送信して、全員参加とのこと。ハイパーホワイト会社の平和な社内メールを、黒の組織にも見せてやりたい……いや、見せたら何を云われるかわからないので絶対に見せないが。

 昼休みに父上宛に市役所の書類を送る。普通郵便で出してしまったが、これはレターパックの方が良かったか。今日出したら最短で木曜日に届くので、即日出しても返信は翌週月曜日になるわけか。全然間に合うけど、まさかという箇所を間違えられていたので、謎の不安がある。

 晩ごはん、冷しゃぶ。つるむらさきを茹でてとろろと和えたの。キムチときゅうりのせ冷奴、キャベツとうすあげのお味噌汁。白ごはん。

 夏生さんがビックに買いものに寄ってきてくれたのでご飯が20時過ぎになる。先に食べていようかとも思ったけれど、春鹿の超辛口を買ったところだったので、KALDIの蟹味噌で飲みながら待っていたりしていた。

 飲みながらつくったり、つくり足したりするのは、それこそスラム街での暮らし以来だったのでなんか良かった。

7月31日(水)

 きょうはテレワーク。無心に入力と確認作業。エアコンの温度をふだんの0.5℃下げないと日中は暑い。去年よりぜったい電気代がやばいな、と思う。加湿器も寝るときにつけているし。

 先日、紺野なつさんの娘ちゃんから「まいちゃん(わが家のかたつむりの名前)へのお土産」ということで、海で拾ったという貝殻を頂いた。

 かたつむりは自分の殻を強くするためにコンクリートや卵の殻を食べる。うちのかたつむりもボレー粉という、牡蠣の殻を砕いた鳥用の飼料を食べている。なので、貝殻自体はぜんぜん食べるはずなのだけど、未だに貝殻にすら乗ろうとしない……でも人間からすると、いきなり家の中にエジプトのミイラを安置されたような感じだったりするのだろうか。同族の死骸といえばまあそうなわけで……置き場所を変えたりして引き続き試してみたい。

 晩ごはん、鶏むね肉のタンドリーチキン風。長芋と舞茸も一緒に漬け込んで焼いたら美味しかった。それと春雨サラダ、プチトマトとニラのお味噌汁、白ごはん。

 塔の吉川さんから送って頂いた『叡電のほとり』を少し読む。365首、一日一首の短歌日記。

 1ページにつき一首、歌が載っているのだけれど、その日の感想というか雑記的なひとことも収録されている。

 野の猫もあたらしき年を迎えたりのろりのろり脚を浮かせて歩む/吉川宏志『叡電のほとり』

 近所に五匹いる猫のことを詠んだ歌で、そのうち一匹の黒猫を「スパイちゃん」と呼んでいるというエピソードがなんだか良かった。

 そういえば塔のブログで、大森静佳さんも近所の猫に「茂吉」「赤彦」という名前をつけていると書かれていた。歌人の地域猫の名づけのセンス、なんだかいいな。

 ちなみに自分の家の周囲にも地域猫がたくさんいて、わかっているだけで11匹いる。ただ自分も夏生さんも「黒にゃーん」とか「三毛にゃーん」とかいう呼び方なので、まだまだなんちゃって歌人である。

8月1日(木)

 黒の組織の次長からお祝いのバームクーヘンを頂いた。先日、保険証の変更などの連絡をしたのだけど、そこからすぐにこんなお祝いを……黒の組織に所属して以来、こういう経験がはじめてなので、びびりまくってしまう。まだ嬉しさやありがたさは追いついてきてなくて「本当に?」という感じだ。

 本屋に寄ったりしていたら思っていたより遅くなってしまって、晩ごはんは夏生さん作のケンミンの焼きビーフン。ニラとシーフードミックス入り。

 たまたまなのだけど、夏生さんも会社からお祝金を頂いたらしい。けっこうな金額なので夏生さんの「おれの考えたさいきょうの旅行プラン」の資金にさせてもらえたらいいのだけど、その前にいろいろ互いの家族間でやらなければならないこと、決めなければいけないことがけっこうあって、本当にそれに使っていいのか、もう少し考えた方がいい気もする。

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