【連作】塩本抄「微温」&自選短歌集

きょうは、塩本抄さんの連作「微温」と自選短歌集をおとどけします
短歌マガジン 2024.07.13
誰でも

[次世代短歌プレミアム]

■歌人プロフィール

塩本抄(しおもとしょう) @tankanosio

2021年3月から短歌を詠んでいます。マイペース歌人会、A短歌会に所属。ときどきうたの日。ふだん石川、たまに長野にいます。土地やふるさとへの想いが詰まった短歌が好き。#ふるさとうた で教えてくださいね。 

***

[新作・連作]

微温

   塩本抄

天井の隅に犇くかたつむりたち虹色に瓦解してゆく

あるいは花、破片が破片を映しあうときその奥にいる永遠の

二度と会えないゆめばかり伸ばす手の創にやさしく蝶は降り立つ

まひるまに産毛は揺れて横たわるものにはわかる微かな温度

岸辺から離れたかじかの声を待つ そう 息遣いをなるべく伏せて

カーテンの波打際の眩しさをそういう虫と教えてくれた

(塩本抄)

***

■塩本抄自選短歌集

遠足のしおりみたいに近況を揃えて夜と君を待ってた

もやひとつずつ手触りを確かめてから雲にする 電話をかける

おままごとしましょう僕が月として君は花です。こんばんは、はな

夜勤あけの朝陽は缶に反射して鯖の水煮のたしかな塩気

内陸の冬に触れたる友の云うぴしぴし寒いを撫でてみる 風

穏やかな暮らしのためにスポンジでつめたく擦るシンクのぬめり

この先に咲くリンドウのことを伏せ君と並んで立つ望湖台

ふるえてる君の「またね」がこの夏でいちばん寿命の長い傘です

幾たびも淑やかであれと波よせてなずきに育つ塩の結晶

雪の日にもらった手紙を読み返すわずかに息を止めたい朝に

空調にふるえる端の、見てほしい、こんなに頼りない証明書

空咳のような詩をまた書き留めて雨季の匂いが今は恋しい

コロッケを買いに行くだけ鳩胸と猫背がひとつの傘に並んで

二日目のポトフみたいな世界のほうがほんとう。たまに眼鏡を外す

眠る街を木琴として牡丹雪がぼろん、ぼろんと奏でていたり

握ったり開いたりして不思議だろうそれはお前の世界をつくる

この家はいっとう閑かショートへと祖父を預けて新月の母

ベランダをおおらかそうに揺れていたタオルのほつれ糸を捉える

食べさせて寝かせてローカル番組の始まった午後四時の昼食

水稲のはるかに揺れてさみどりの縞馬の背に留まる鶺鴒

どっちでもいいけどかるいさわと読むとき立ちのぼる朝霧の濃さ

寝る前にきみが生まれた日のことを語れば夜はやわらかな藍

笹舟は海へ行けるか川底の藻草たなびく安曇野の春

黄金なる卵よりサクラマスあふれ九頭竜川は春を帯びたり

あまたなる雲の鱗をつらぬいて飛行機は矢のように還りぬ

離職した同期について語りあうミモザサラダを分けあいながら

ひとしきり星座の話をした空に意味しかなくてずっと見てる火

三人でまずは山葵を擦りおろすみな告白を持ち寄りながら

雪、潟湖、羽ばたく鴨の終わらない連想ゲームずっと光って

弟の歩みは遅いひとつひとつ路傍の神に頭を下げて

(塩本抄)

■『次世代短歌プレミアム』アーカイブより

塩本抄のエッセイはこちら

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