【石村まい作品集】連作「輪唱」、短歌とエッセイ「玉ねぎどこいった」、自作短歌集
[次世代短歌プレミアム]
🏆️ 石村まいさんが「第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト」の連作部門で大賞を受賞されました。誠におめでとうございます!(2024.9.25追記、[LINK])
■歌人プロフィール
石村まい(いしむらまい) @mai_tanka
山口出身、兵庫在住。俳句甲子園を機に俳句を始め、京大短歌を経て短歌も詠むようになりました。パンの話をするととても喜びます。 第1回カクヨム短歌連作部門最終候補作。
[連作]
輪唱
石村まい
みずみずしい糸に曳かれるようにして機体が浮けば腰骨も浮く
声は光、いつかわたしを吸うためのハイビスカスがぎらぎら咲いて
息よりもながくて青いさざなみの胸にゆっくりはなつ貝殻
砂粒が帽子のつばに綴じられる そうして記憶をはこんでもらう
西日から逃れられない耳朶に浅いねむりの琉球ガラス
(石村まい)
[短歌とエッセイ]
玉ねぎどこいった
石村まい
とろとろになったときのおいしさ満点、それを狙いすぎたときの消失確率も満点なお野菜、玉ねぎ。わたしはあなたのことが大好きで、家で切らしたことがない。必ず、単価がいちばん安い袋(だいたい大袋)を買っている。
実家ではあまり玉ねぎが料理に出てこなくて、不思議なことこのうえないのだが、一人暮らしスタート以降、わたしはずっと玉ねぎとともに暮らしている。じゃがいもやにんじんと比べると皮の処理も楽だし、お安めだし、火が通りやすいし、なんてったって味の主張がそこまで強くない。どんな料理に入れてもOK。和洋中全部いける。すばらしい。
じゃっかん歯ごたえを残して仕上げるのも悪くはないが、個人的にはやっぱり、しっかり加熱して甘みを引き出した玉ねぎが好き。飴色になるまで炒めるのは、いつもやる気と元気がちょいと足りないので、あんまりやらない。カレーには飴色玉ねぎを~というレシピをよく見かける。おいしいのはわかってんだけどよォ……。去年の冬から、圧力鍋の調理に目覚めつつある。はじめて使ったとき、なんて楽なの……!と感動した。材料をぽんぽん入れて、あとはスイッチを押すだけなのだ。そしてなんといっても、仕上がった具材のほろほろ感がたまらなくて(鶏手羽とかもう絶対コレ一択、今までフライパンで頑張っていた自分のことを振り返りたくもないいじらしいわッ)、自力で煮込んでいたあの時間はなんだったのだと天を仰いだ。
圧力鍋はほろほろパワーがすさまじいので、固いにんじんやじゃがいももすぐに柔らかくなる。それはそれでよいのですが、玉ねぎですよ。いつものノリで切った玉ねぎを入れてシチューを作ると、あれ?玉ねぎ入れたっけ?と自分を疑った。姿が消えていたのだ。あまりにも圧力をかけられすぎて消滅。社会の人間と同じ仕組み。かなしい。そのままスープの旨味と化したので、玉ねぎ本人からすると多大な功績を挙げた回なのだが、とろとろの玉ねぎ愛好家としてはちょっぴり物足りず。それからは、なるべく大きく切ることにしている。切る、といっても、ひと玉を四等分するくらい、えっこれで火通ります?って心配になるくらいの大きさ。それでもやや消えかける場合もあるので、半玉まるごとでもええじゃないかええじゃないか運動を起こしてもいいのかもしれない。
圧力鍋と同じくらい、いやそれ以上に炊飯器調理にもハマっているので、そこでも玉ねぎの行方を気にしなければならない。圧力鍋ほどスピーディにやわらかくなるわけではないのだが、ありがたいことに放っておくとすぐに加熱が進む。鶏チャーシューなんかも作れる。玉ねぎのいい塩梅でのストップに失敗した日(=溶けた日)は、もうひとつ玉ねぎを出してきて追加する。無限玉ねぎ。無限オニオン。インフィニティ・オニオンズ……こんなグループ名でどうでしょうか?(何の?)
やくそくのように話した 深鍋をとろりとめぐる玉ねぎのこと
(石村まい)
■石村まい自選短歌集
ほんとうはあなたが虹をもっていて忘れた頃に映してくれる
対岸のキャッチボールは終わらずにそういうシーンのようだとおもう
脇に肉をつけてたのしき母親となんども褒める真珠の艶を
ワンピース脱ぎ捨てるときいきものの骨格あらわなる一人部屋
吐露という行為がむずかしいひとへキャロットラペを甘く仕立てる
(石村まい)
■『次世代短歌プレミアム』アーカイブより
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