【短歌日記】toron*「ナイフのように爪先立ちで」(第24回)11月9日〜11月15日
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[短歌日記]
ナイフのように爪先立ちで 第24回
toron* 日記 11月9日〜11月15日
吐く息のさらに延長線上に月あり 眼鏡を長くみがいた
11/9(土)
きょうは夏生さんは仕事。自分は京都の細見美術館の「美しい春画展」に行く。特に北斎の絵が楽しみだった。
去年、熱海のMOA美術館で見てから北斎がすごく好きになったのである。プルシアンブルーの海と一転して今回はなんやら絡まり合っている人体の構図ばかりだったのだけど、クオリティはずっと高いままで画風の幅広さにびっくりした。
面白かったのは、海女さんとのカップリングで描かれた絵が多くて、特に脚注はなかったのだけれど、当時人気のシチュエーション設定だったのだろうか……シチュエーション萌えというものは既に江戸時代から存在していたのかと思うと、なかなか興味深い……。
ひさびさにいいお値段の図録を買ってしまう。
せっかく京都まで来たので、平安神宮近くまで歩いて、カフェにでも入るかと来る前は考えていたが、財布と気を引きしめて真顔で奈良へと直帰。
行き帰りを使って、川野里子『ウォーターリリー』を読み終える。
複数の連作が収められているが、どの連作にもほのかに表題作の連作が響き渡っていて、ひとつのコンセプトを持ってつくられた歌集であるように思う。
モネの描きし睡蓮はたかが光なりウォーターリリーあなたは誰だ/川野里子『ウォーターリリー』
読み終えて歌集のこの「あなた」とは誰なのだろうという気持ちが強くなった。
そういう問いのなかですぐに思いつくのはやはり「神」なのだれども、この歌集のなかで「神」はもう死んでいるのである。
神は死に睡蓮はそこに残りたりウォーターリリー光が白い/川野里子『ウォーターリリー』
晩ごはん、豚汁鍋。「豚汁鍋の素」というパウチをなぜか夏生さんが間違えて(何と?)買ってきていたので、それを使った。
具材は白菜とニラ、既製品の鶏つみれ、しゃぶしゃぶ用の豚肉。長芋のすりおろしたやつをいれたらめっちゃ美味しかった。春鹿の冬季限定っぽい日本酒もふたりで1合くらい飲む。
食べ終えると日中の疲労とアルコールと血糖値の上昇で、ふたりともはやばやと意識を失う。休日の夜、一瞬で終わる。
11/10(日)
先週の雪辱、正倉院展のリベンジに成功する。
夏生さんはこれまで何回も行っているらしいが、自分ははじめてで、展示品も毎年変わるということを教えてもらうなど。最終日なので特に入場者が多めな気がする。
会場内、けっこうルーペを持っているひとがいて、なるほど確かに持っていると展示ケースの前に行かなくても、展示品に彫られた模様などをアップで見ることができる。毎年来ているひとも多いのだろうなあ、と思う。
ポスターにもなっていた「黄金瑠璃鈿背十二稜鏡」とても良かった。同じ柄の中川政七商店のかや織ふきんを買って帰る。
帰宅してから連作の原稿、1本送る。
晩ごはん、せんべい汁、レタスのナムル、ホタテの佃煮、白ごはん。
せんべい汁は青森で買ったせんべい汁のキットを使ったのだけど、けっこうリアルな感じに仕上がった。ホタテの佃煮も青森で買ってきたやつである。
21時半から恋愛短歌同好会キャス。
けっこう上手く喋れた、という実感があったけれど、自分がどうこうというよりか、キャスに来てくれた人数が少なめで、その一方で長めに感想を書いてくれた方が多かったというのが大きかった。
短歌で自律神経が活性化してしまった感じで、脳内でずっと短歌が鳴っていて、ベッドに入ってからかなり長い時間くらやみを見ていた。
11/11(月)
脳内で通奏低音的に短歌が鳴っている感じ。
今週また〆切が2本あったり、土日を通してけっこう歩き回ったりしたからなのか、とにかく自律神経が非常に優位になっていて、肩と背中ががちがちになる。
そういえば、以前はこういうふうにレッドブルを脳に流し込まれたような感覚のなか、短歌をつくっていたことを思い出す。
痛みにあえて集中してやるというか。そういうつくり方はもうできない。
仕事後、黒の組織のシェルターに年末調整を出しに行く。
今年は姓が変わったり世帯に入ったり、新たに保険に入ったりしたので、けっこう去年と書き方に迷ってまあまあぎりぎりになってしまった。
黒の組織の事務員の方は、ていねいに対応してくれたけれど、それとは関係なくこの歌をいつも思い出してしまう。
あのおんな虫も殺さぬ顔をして年末調整ギリギリに出す/ヱイ
晩ごはん、夏生さん作のチャプチェ、小松菜のぽん酢しょうゆ漬け、白ごはん。
チャプチェはわたしが「春雨を炒めたものが食べたい」とリクエストしたことによる。
リクエストしたのは実は先週だったのだけど、そのとき家に春雨がなかったのでリクエストも消滅したと思っていたのだが、なんと覚えていてくれたらしい。春雨、ふいに無性に食べたくなるときがある。うまい。
肩が痛いのがぶり返してきて、食後1時間くらい横置きになっていたら夏生さんが食器洗いなどをやってくれていた。自分の無能感がつよくなる。
明日はさすがに整形外科案件だなと思う。焼け石に水っぽさがあるが、それでもストレッチをしてからねむる。
11/12(火)
仕事後、整形外科に行く。きょうもけっこう待つ。
待っている間に、高殿円『カーリー』を読む。これまでに読んできた高殿作品より、かなり展開が早くてライトな文体。調べたらもとはファミ通文庫(なつかしい……)で刊行されていたらしいので、対象年齢がやや低めなこともあるのか。
でも半分くらい読み進めてきてからかなり面白くなってきたので、やっぱりこういうのは通して読まないとわからんなと思う。
整形外科は前回とも前々回ともちがう先生で、力加減とか場所とかいちばん丁度良かった。声と喋り方がめちゃめちゃ志磨遼平に似ていた。
晩ごはん、夏生さん作の鶏もも肉のねぎ塩だれ。それとにんじんのきんぴら、小松菜のお味噌汁、白ごはん。
寝る前に急にドレスコーズが聴きたくなり、YouTubeで『人間ビデオ』を3周してからベッドに入る。
11/13(水)
ふうせんかずらさんに古本市に出品した本を回収してから帰る。30人くらいいる棚主のなかでいちばん自宅から近い可能性がある。
まだ清算がされていないけれど、おそらく参加費分は売れた、という感じ。年に2、3回くらいあるイベントなのだけれど、今後はもっと工夫したり宣伝したりもやっていかねばなあ、と思う。
思うのだけれど、気持ちにもエネルギーにもずっと余裕がない。好きなことをしながら生活をしているひとたちはいったいどうしているのだろう、と漠然と思う。
自分はキャパシティが少なすぎなのでは、という謎の焦りがある。無理にやろうとすると結局取り組んだことが等しく雑になってしまうのである。
晩ごはん、夏生さん作で鮭のちゃんちゃん焼き、白ごはん。
ひさびさに鮭を食べたらめっちゃ美味しい。さいきん、魚を食べてはいても、鯖とかばかりだったので骨の身離れの良さに感動する。
大滝和子『「銀河を産んだように」などIIIIII歌集 』をようやく読み終わる。
少しずつ読んでいたということもあるが、実際収録されている歌数も多かった。
桜を数字であらわすなら3 まだ咲かぬもの既に咲きつつ/大滝和子『竹とヴィーナス』
という歌があって、別の歌をすぐに思い出した。